はしか(麻疹) 【医師監修】どんな症状? 2回の予防接種を受けましょう 感染力はとっても強い!
しかし、これは日本でのはしか(麻疹)の感染者が1人もいないということではありません。
はしか(麻疹)のウイルスが海外から持ち込まれることで、現在でもはしか(麻疹)の感染は毎年発生しています。
医師紹介
目次
はしかの語源
「はしか」の正式な病名は「麻疹(ましん)」です。
「はしか」の語源は未詳ですが、はしか(麻疹)の発疹の症状が、植物の「芒(はしか・のぎ)」に触れたときに出る赤い発疹と似ていることから「はしか」と呼ばれるようになったとされる説があります。
強い感染力!感染経路は「空気感染」「飛沫感染」「接触感染」
はしか(麻疹)は、麻疹ウイルスに感染することによる急性の全身感染症です。
毎年春から初夏にかけて、患者数が多くなります。
感染経路は、主に、空気中に含まれるウイルスを吸い込むことによる「空気感染」です。感染している人の咳やくしゃみなどに含まれるウイルスを吸いこむ「飛沫感染」や、手指やもの、食品などについたウイルスが主に口から体内に入る「接触感染」によっても感染します。
麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、どんなに広い場所(体育館やコンサートのようなイベント会場など)でも、免疫をもっていなければ、同じ空間にいるだけで感染してしまいます。
例えば、感染力が強いとされているインフルエンザでは、1人の患者から感染するのは、免疫のない1~2人程度とされていますが、はしか(麻疹)は、1人の患者で免疫のない12~14人程度に感染するとされています。
さらに、免疫を持っていない人が麻疹ウイルスに感染すると、ほぼ100%発症するとされています。
周囲に感染させてしまう期間は、症状が出る1日前から解熱したあと3日くらいまでとされているため、この期間は、感染しない / させないように注意しましょう。
はしか(麻疹)の症状 - 特徴は赤い小さな発疹と高熱
はしか(麻疹)は、麻疹ウイルスに感染してから10~12日間の潜伏期間を経て、熱や咳など風邪のような症状、目の充血の症状などから発症します。
その後、前駆期(カタル期)→発疹期→回復期の経過をたどり、重症化しなければ、症状が現れてから7~10日で回復していきます。
経過と症状
【前駆期(カタル期)】 2~4日間
○主な症状
- 38℃前後の発熱
- 倦怠感
- 咳 / くしゃみ
- 鼻水
- 目の充血 / 目やに
- 下痢や腹痛(乳幼児)
- コプリック斑
【発疹期】 3~5日間
○主な症状や経過
・高熱
前駆期の発熱が1℃程度下がったあと、半日ほどで再び高熱(多くの場合39.5℃以上)が出ます。
・発疹
高熱とともに、はしか(麻疹)特有の発疹が以下のような経過で体全体に現れます。この発疹は、痛みはありませんが、場合によってはかゆみをともなうことがあります。
耳の後ろ ・ 首筋 ・ おでこ
↓( 翌日 )
顔 ・ 体 ・ 上腕
↓( 2日後 )
手足
【回復期】
- 熱が下がる
- 風邪のような症状が治まる
- 発疹が退色する
赤い発疹は黒ずんだ色素沈着となり、しばらく残りますが、やがてこれも消えていきます。
免疫力の回復には1ヶ月程度かかることもあるため、他の感染症にかからないように注意しましょう。
○コプリック斑とは?
頬の内側の粘膜にできる、1mm程度の小さな白い斑点で、痛みなどはありません。
コプリック斑は、はしか(麻疹)に特徴的な症状で、発疹の症状が出る1~2日前に現れ、発疹の症状が出て2日を過ぎるころには消えてしまいます。
出典: 国立感染症研究所ホームページ
はしか(麻疹)の治療 - 対症療法
はしか(麻疹)に対する特別な治療方法はありません。高熱に対しては解熱剤を使うなど、つらい症状を和らげる対処療法となります。
合併症がある場合は、それに応じた治療を行います。
はしか(麻疹)の予防 - 予防接種が最も効果的
麻疹ウイルスはとても小さく、感染力も非常に強いため、マスクや手洗いでは完全に予防することはできません。
唯一の有効な予防法は、ワクチンの予防接種で麻疹ウイルスに対する免疫を獲得することです。
はしか(麻疹)の予防接種は、以下のように定期接種の対象になっています。
ワクチンの種類:
麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)
または
麻疹ワクチン
接種回数: 2回
対象年齢:
1回目・・・ 1歳
2回目・・・ 5歳以上7歳未満 かつ 小学校就学前
定期接種とは?:
国や自治体が接種を強く勧めているワクチンです。対象年齢や接種時期などが定められていて、ほとんどの場合、無料で接種することができます。(一部有料の場合もあります。)
どうやって受けるの?:
住民登録をしている市区町村から予診票や予防接種が受けられる医療機関の一覧表などの案内が届きます。
各自治体によって、実施方法や注意点は異なります。送られてくる案内をよく読み、期間内に予防接種を受けるようにしましょう。
なぜ2回接種が必要なの?
2回接種には3つの理由があります。
理由1:
1回の摂取で免疫がつかなかった子どもたち(数%存在すると考えられます)に免疫を与えます。理由2:
1回の接種で免疫がついたにもかかわらず、その後の時間の経過とともにその免疫が減衰した子どもたちに再び刺激を与え、免疫を強固なものにします。理由3:
1回目に接種しそびれた子どもたちにもう一度、接種のチャンスを与えます。
引用)国立感染症研究所
ワクチンの副反応
- 発熱 ( 接種後2週間以内 )
- 発疹 ( 接種後1週間前後 )
- じんましん
- 脳炎、脳症 ( 100万~150万人に1人以下 )
ワクチン接種での副反応とされている脳炎や脳症は、実際にはしか(麻疹)にかかったときの発症率に比べるとはるかに低い確率です。
年代によって違う予防接種回数 - 自分の生まれ年をチェック!
現在は、2回の定期接種となったはしか(麻疹)の予防接種ですが、それは2006年度からのこと。それ以前は、任意接種だったり1回接種だったりと、受ける条件や回数が年代によって異なります。
現在では、2歳以上の年齢の95%以上の人は、はしか(麻疹)の抗体を保有しているとされていますが、予防接種をしているかわからないという場合は、自分の生まれた年をチェックして、予防接種を受けることを検討してみましょう。
1977年以前
はしか(麻疹)の予防接種は、1966年にはじまりましたが、1978年に定期接種となるまでは任意接種でした。そのため、この年以前に生まれた多くの人は予防接種を受けていないことが考えられます。
ただ、この時代は、自然感染ではしか(麻疹)にかかることが多かったため、既に免疫を獲得している人が多いと考えられます。
1978年から2005年
1978年からはしか(麻疹)の予防接種は定期接種となりました。ただし、現在のように2回の定期接種になったのは2006年以降で、この時代の定期接種は1回のみでした。
○2007年の流行
2007年、10代から20代(1970年代から1990年代生まれ)の間ではしか(麻疹)が全国規模で大流行しました。
なぜ流行した?:
- 定期接種が未徹底で、一度も予防接種を受けていない
- はしか(麻疹)の流行が少なくなり、自然感染で免疫を獲得する機会が減った
- 1回の定期接種で十分な免疫がついていない
- 1回の定期接種で免疫はついたものの、麻疹ウイルスに接する機会が減って免疫が強くならなかった
など
2007年の流行を受け、翌年から5年間、1990年度から1999年度生まれの人には追加接種の機会が設けられました。
※定期接種は強制ではないため、必ず受けているとは限りません。なんらかの理由で受けていない場合もあるため注意しましょう。
2006年以降
2006年からはしか(麻疹)の予防接種は2回の定期接種となりました。
※定期接種は強制ではないため、必ず受けているとは限りません。なんらかの理由で受けていない場合もあるため注意しましょう。
登校・登園はいつから?登校・登園の目安
はしか(麻疹)は、学校保健安全法施行規則によって出席停止期間が以下のように定められています。
○ 麻しんにあつては、解熱した後三日を経過するまで。
引用)学校保健安全法施行規則
この場合は、通常の欠席とは扱われません。詳しい届け出方法は、各学校、教育・保育施設に確認しましょう。
大人のはしか(麻疹)は重症化しやすい?!
はしか(麻疹)の免疫が十分でない場合には、大人も同じように感染する可能性があります。しかも、大人の場合は合併症を起こす頻度が高く、重症化しやすいとされています。
はしか(麻疹)と妊娠
妊娠中にはしか(麻疹)に感染した場合、以下のような特徴があります。
- 重症化しやすい
- 風疹のように先天性の奇形などを起こす可能性は低い
- 流産や早産、死産を起こす可能性がある
流・早産、死産の起こる割合は3~4割とされていて、そのほとんどは、発疹が現れてから2週間以内に起こるとされています。
○妊娠を希望している場合
予防接種を受けることを検討しましょう。
妊娠を希望している女性やその家族(同居者)は、麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)を無料 または 一部助成して受けられる場合があります。詳しくは、お住いの市区町村に問い合わせてみましょう。
また、はしか(麻疹)のワクチンは、接種後2ヶ月間は妊娠を避ける(避妊をする)必要があります。接種のタイミングも検討しましょう。
○既に妊娠している場合
予防接種は受けられません。はしか(麻疹)流行時は外出を避ける、人混みに近づかないなど、感染に注意して過ごしましょう。
いろいろな合併症「肺炎」「脳炎」「中耳炎」に特に注意!
はしか(麻疹)にはさまざまな合併症があり、感染者の約3割が合併症を起こすとされています。特に肺炎と脳炎は二大死因とされていて注意が必要です。最も多い合併症のひとつは中耳炎です。
主なはしか(麻疹)の合併症
○肺炎
はしか(麻疹)の合併症による肺炎には、以下の3種類があります。はしか(麻疹)による二大死因のうちのひとつです。
- ウイルス性肺炎
- 細菌性肺炎
発疹期を過ぎても熱が下がらない場合は、細菌性肺炎が疑われます。 - 巨細胞性肺炎
死亡例も多い合併症です
○中耳炎
はしか(麻疹)患者の5~15%で起こる、最も多い合併症のひとつです。
○クループ症候群
小児(特に乳幼児)に多い合併症です。
喉が炎症を起こして腫れることで、気道が狭くなり呼吸が苦しくなります。特徴的な症状には以下のようなものがあります。
- 声がかれる
- オットセイや犬の鳴き声のような「ケンケン」と特徴的な咳
- 息を吸うときにヒューヒュー、ゼーゼーなど音がする
など
○心筋炎
心臓の筋肉に発生する炎症で、心不全や胸痛、不整脈などの症状がありますが、重症化することはほとんどありません。
○脳炎
はしか(麻疹)患者の1,000~2,000人に1人の割合であらわれる合併症です。
発生頻度は高くありませんが、肺炎と同じく、はしか(麻疹)による二大死因のうちのひとつで、注意が必要です。
発疹があらわれてから、2~6日後に発症することが多く、以下のような症状があらわれたらすぐに医療機関を受診しましょう。
- 高熱
- けいれん
- 意識障害
など
20~40%の割合で、後遺症 ( 精神発達遅滞、けいれん、行動異常、難聴、麻痺 ) が残るとされています。死亡率は約15%です。
○亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
はしか(麻疹)患者の10万人に1人と、発生頻度はかなり低いとされている合併症です。
SSPEは、はしか(麻疹)にかかってから7~10年の潜伏期間を経て、知能障害や運動障害があらわれ、徐々に進行し、やがて死に至ります。全体の8割は学童期に発症しています。
1歳未満や、免疫機能が低下している状態ではしか(麻疹)にかかった場合に発症することが多いとされています。
治療法は確立されておらず、難病指定を受けています。
SSPEの予防は、唯一、はしか(麻疹)にかからないことであるため、予防接種を受けることがとても重要です。
こんな人は予防接種を検討しましょう - 費用の目安
はしか(麻疹)は、一度感染して発症すると、一生免疫が続くとされています。
しかし、自然感染した場合は、重症化するリスクや、後遺症、死につながる可能性のある合併症を起こすリスクが高くなります。
一方、2回の予防接種をすれば、ほとんどの人は免疫を獲得でき、それを持続させることができます。
予防接種による副反応が出る場合もありますが、症状の重さや発生する頻度は、自然感染と比べるとはるかに低い確率です。
以下にあてはまる場合は、ぜひ予防接種を受けることを検討しましょう。
- はしか(麻疹)にかかったことがない
- 予防接種を受けたことがない または 1回しか受けていない
- 妊娠を希望しているが2回の予防接種をしていない
- はしか(麻疹)の流行している海外へ行く予定があるが2回の予防接種をしていない
- 医療、学校、保育、福祉関係者で2回の予防接種をしていない
※2006年以降、はしか(麻疹)の予防接種は、2回の定期接種になりました。しかし、これも強制ではないため、なんらかの理由で2回接種をしていない場合もあります。
○予防接種の費用の目安
(自費診療・保険適用外)
麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン):8,000~12,000円程度
麻疹ワクチン:4,000円~7,000円程度
※医療機関によって異なります
妊娠を希望している女性やその家族(同居者)は、MRワクチン(風疹麻疹混合ワクチン)を無料 または 一部助成して受けられる場合があります。詳しくは、お住いの市区町村に問い合わせてみましょう。
はしか(麻疹)にかかったかわからない・予防接種をしているかわからない
こんなときは、免疫をもっているか、抗体検査を受けることができます。ただ、この検査も自費診療(保険適用外)で、数千円の費用がかかります。その結果、免疫がなく、予防接種を受けるとなった場合は、さらに費用がかかってしまいます。
既に免疫がある状態で、さらに麻疹ワクチンを接種しても健康に悪い影響はないため、同じ費用がかかることであれば、抗体検査をせずに予防接種を受けても問題ありません。
現在の日本がそうであるように、はしか(麻疹)は地球上から排除できる病気だと考えられています。
ぜひこの機会に、はしか(麻疹)の予防接種を検討してみてください。
※当コラムは東京内科医会のご協力によって作成されています。
東京内科医会は、常に最新の医学知識を学び、最良の医療を実践する魅力を持った何かを主体に、診療を行っている医師の集まりです。