特定健康診査(メタボ健診)結果の正しい見方【医師監修】
特定健康診査(メタボ健診)の結果の正しい見方、読み方を知ろう

食生活の欧米化などにより、右肩上がりで患者数が増加している生活習慣病。40歳以上の人が対象の特定健康診査(以下、特定健診)は、生活習慣病予備群といわれる「メタボリックシンドローム」の発見を目的としたものです。思わぬ結果にショック受けることもあるでしょうが、せっかく得た生活習慣病予防のきっかけを逃さないためにも、まずは健診結果を正しく読み取る知識を身につけることから始めましょう。
無症状のまま動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすことも
メタボリックシンドロームは内臓脂肪症候群とも呼ばれ、内臓の周囲に蓄積された脂肪の影響で血圧、血糖値、中性脂肪値が高くなるなど、複数の症状が重なって起きている状態を指します。なにより怖いのは、個々の検査値は生活習慣病の基準を満たすほどではないにもかかわらず、同時併発することで、脳梗塞や心筋梗塞の原因となる動脈硬化が自覚症状もないまま、急速に進行してしまうことです。
特定健診の判定基準は、生活習慣病のリスクの高い人を広く拾い上げるため、メタボリックシンドロームの診断基準よりも厳しく設定されています。異常が見つかった人には生活習慣改善の指導(=特定保健指導)が行われますが、その内容は健診結果の深刻度に応じて、「情報提供」「動機づけ支援」「積極支援」の3つのレベルに分類されます。
◆特定健診・特定保健指導の流れ
【ステップ1】内臓脂肪蓄積のリスクを判定
○腹囲 男性85㎝未満、女性90cm未満であってもBMI(※1)が25以上の場合→グループ2
※グループ1、2のどちらにも該当しない場合は特定保健指導の対象外

【ステップ2】追加リスクをカウント
(1)血糖値:空腹時血糖が100mg/dl以上、HbA1c(NGSP)が5.6%以上(※2)、薬物治療中のいずれかに該当
(2)脂質:中性脂肪が150mg/dl以上、HDLコレステロールが40ml/dl未満、薬物治療中のいずれかに該当
(3)血圧:収縮期血圧が130mmHg以上、拡張期血圧が85mmHg以上、薬物治療中のいずれかに該当
(4)喫煙歴あり((1)~(3)のうち1つ以上に該当した場合にカウント)

【ステップ3】ステップ1、2から保健指導対象者をグループ分け
0個 → 情報提供
1個 → 動機づけ支援
2個以上 → 積極的支援
0個→ 情報提供
1~2個 → 動機づけ支援
3個以上 → 積極的支援
※1BMI(Body Mass Index)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
※2NGSP値。従来はJSD値が使われてきたが、2013年度から国際基準であるNGSP値に変更。
血糖値、脂質、血圧の検査値にはどんな意味があるの?
- 【血 糖】
- 空腹時血糖値とHbA1c(メモグロビン・エイワンシー)を測定します。血糖値が採血時の瞬間値であるのに対し、HbA1cは直近1~2ヵ月の血糖値の平均値を示します。糖尿病と診断されるのは空腹時血糖値126mg/dl以上の場合ですが、「境界型(110~126mg/dl)」と呼ばれる、糖尿病でも正常でもないグレーゾーンの人たちの毎年3~7%が糖尿病に移行するといわれています。境界型も糖尿病同様、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まることがわかっていますので、該当する場合は、すでに病気の状態と考え、早急に生活習慣の改善に取り組むべきでしょう。
- 【脂 質】
- 動脈硬化は、LDL(悪玉)コレステロールが血管壁に蓄積されることによって引き起こされます。特定健診ではこのLDLコレステロールの増減に深く関与する、中性脂肪とHDL(善玉)コレステロールの値を調べます。中性脂肪が増えてHDLコレステロールが減ると、LDLコレステロールが増え、動脈硬化が進行します。中性脂肪は内臓脂肪の蓄積以外でも、清涼飲料水やアルコール、甘い菓子、果物、動物性脂肪の過剰摂取によっても増加します。とくに動物性脂肪の過剰摂取はLDLコレステロール値を直接押し上げる原因にもなりますので、避けるのが賢明でしょう。
- 【血 圧】
- 日本高血圧学会の基準では収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上のいずれかに該当する場合を「高血圧」と診断しますが、特定健診の基準はそれよりも厳しくなっています。メタボリックシンドロームの人には起床時の血圧が高い、「早朝高血圧」がよくみられます。そのため家庭用血圧計でのチェックを習慣にするとよいでしょう。家庭で測る場合の高血圧の診断基準は135/85mmHg以上になります。
大切なのは検査値の経年的変化を観察すること
ここまでは個別の検査項目についてみてきましたが、健診結果を生活習慣病予防に生かすうえで最も大切なのは、毎回の結果に一喜一憂するのではなく、過去の結果と比較して、数値がどのように変化してきたのかを観察することです。
糖尿病患者の健診結果を経年的に追うと、発症する10年くらい前から正常範囲内には収まっているものの、血糖値が少しずつ上昇しているケースがしばしば見受けられます。こうした例からもわかるように、各種検査結果が基準値の上限(あるいは下限)に近い場合は、どのような生活習慣と関連して異常が起きているのかを考え、速やかに行動に移す必要があります。
特定健診では見つからない隠れ糖尿病、食後脂質異常症、仮面高血圧症

もう一つ忘れてはならないのは、特定健診ですべての異常が見つかるわけではないということです。
特定健診では空腹時の血糖値を調べますが、糖尿病には「隠れ糖尿病」と呼ばれる、食後にのみ血糖値が上昇するタイプがあります。ほかにも中性脂肪値が食後だけ上昇する「食後脂質異常症」、健診時の血圧は正常値だったのに家庭や職場で測ると高くなる「仮面高血圧症」があり、いずれも特定健診で発見することはできません。これらは内臓脂肪が多い場合によくみられるため、腹囲がオーバーサイズの人は、血糖、脂質、血圧の検査値が正常範囲内であっても、食後2時間の血糖値、中性脂肪値を測定することをお勧めします(糖尿病、高血圧、脂質異常症の疑いがあって検査を行う場合は、健康保険の対象になります)。
がんの発症リスクも高めるメタボリックシンドローム
また特定健診とは直接関係ありませんが、メタボリックシンドロームは、大腸がん、乳がん、子宮がん、前立腺がんの発症リスクも高めます。幸い日本人に多いがんは、検診で早期に見つかることが多いがんでもあります。
メタボリックシンドロームの人はもちろん、そうでない人も、自治体による検診なども上手に利用して、胃がん、大腸がんの検診、男性はさらに前立腺がん、女性は乳がん、子宮がんの検診を受けておくようにしましょう。
※当コラムは東京内科医会のご協力によって作成されています。
東京内科医会は、常に最新の医学知識を学び、最良の医療を実践する魅力を持った何かを主体に、診療を行っている医師の集まりです。
コラム監修
菅原医院
東京都練馬区石神井町3-9-16
菅原 正弘 院長
医学博士、日本内科学会評議員、日本リウマチ学会評議員・専門医、日本糖尿病学会、学術評議員・専門医、日本消化器内視鏡学会専門医

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