軽度認知障害(MCI)からの認知症予防!:【医師監修】その症状、本当にただの物忘れ?

「最近探しものが増えた」「何かをやろうとして立ち上がったのに、何をやろうとしたかを忘れた」・・・こんな経験はありませんか?
このような物忘れは、加齢にともない脳が老化するために起こる自然なものですが、最近特に物忘れが激しい、家族からも物忘れを頻繁に指摘されるようなことがある場合、それは単なる物忘れではなく、「軽度認知障害(MCI)」の症状かもしれません。
目次
- 軽度認知障害(MCI)は認知症の前段階
- 物忘れ傾向チェックリスト
- 症状があってもなくても!実行するべき認知症予防対策
- 生活習慣病の人は認知症になりやすい!予防・管理が大切
- 物忘れ改善・認知症予防にはこれ!
- 認知症になるとどうなるの?
- 主な認知症の種類
- 65歳以上の4人に1人は認知症 または 軽度認知障害(MCI)
- 「物忘れが多いかな?」と感じたら医療機関を受診しましょう
軽度認知障害(MCI)は認知症の前段階
「軽度認知障害(MCI)」とは、物忘れなどの記憶障害はあっても日常生活に支障はほとんどなく、認知症の診断基準は満たしていない状態です。
この軽度認知障害(MCI)は多くの場合、認知症に進展するとされていて、年間で10~15%が認知症に移行するという報告もあり、ただの「物忘れ」と見過ごしてしまうと、高い確率で認知症に移行してしまう、いわば認知症の前段階です。
しかし、早期に軽度認知障害(MCI)を発見して、治療や対策をすることで、認知症発症を予防したり、発症を遅らせることができることもわかってきています。
自分自身や家族の変化をただの「物忘れ」と済まさずに、軽度認知障害(MCI)の段階から早期発見、早期治療・対策をすることが重要です。
軽度認知障害の特徴としては、下記の4つが挙げられます。
- ほかの同年代の人に比べて、物忘れの程度が強い
- 物忘れが多いという自覚がある
- 日常生活にはそれほど大きな支障はきたしていない
- 物忘れがなくても、高次機能の障害が1つある
この場合の高次機能とは、失語・失認・失行・実行機能障害のことです。
- 失語 : 言葉の障害 ( 言葉が理解できない、言おうとした言葉を言うことができない、など )
- 失認 : 対象を正しく認識できない:知り合いの顔、色、大小などを認識できない、など
- 失行 : くわえたタバコにライターの火をつけられない、服を着ることができない、茶葉とお湯と急須を使ってお茶を入れることができない、など
- 実行機能障害 : 計画をたててその計画通りに実行していくなどができない
引用)厚生労働省:みんなのメンタルヘルス総合サイト「認知症」
物忘れ傾向チェックリスト

以下の項目に2~3個以上あてはまる場合は、物忘れの傾向があるため、軽度認知障害である可能性も考えられます。
自分自身はもちろん、家族や身の回りの大切な人も一緒にチェックしてみましょう。
※あくまでも簡易チェックです。軽度認知障害の正確な診断には専門家の診察が必要です。
□ 今何をしようとしていたか簡単に思い出せない
□ 同じことを何度も言ったり尋ねたりする
□ 人と会う約束を忘れたことがある
□ 探しものが増えている
□ 何かやろうとしても「まあいいか」と思ってしまう
□ 長年の趣味を楽しめなくなってきた
□ 外出することが減った
□ 段取りが下手になった
□ レジで会計する時に小銭が使えない
□ 今日の日付が言えない
物忘れの傾向がある人は意外と多い?!
当社従業員の一部で、物忘れの傾向チェックリストを実施したところ、17人中、6割近い10名が2個以上にチェックをしました。
年代別に該当した項目の平均個数を見てみると、20代の平均が1.67個、30代が2.0個、40代が1.67個という結果となりました。
症状があってもなくても!実行するべき認知症予防対策

チェックリストや最近の物忘れの頻度から、もしかして軽度認知障害かも、、、と不安になった方はいませんか?物忘れや軽度認知障害は、予防や対策をすることで、症状を改善したり、認知症への進行を防ぐ・遅らせることができます。
チェックリストがひとつもあてはまらない、物忘れなんて全然ない!という人も、症状のないうちから予防や対策をすることで、脳細胞が老化する速度を緩やかにして、物忘れの症状がでるのを防ぎ、さらには認知症を防ぐ効果も期待できます。
生活習慣病の人は認知症になりやすい!予防・管理が大切
近年、高血圧や糖尿病、肥満、脳卒中などの生活習慣病が、認知症の発症や進展に大きく関わっていることがわかってきました。そのため、生活習慣病の予防、生活習慣病を管理することは、認知症の予防にも効果的です。
生活習慣病の予防・管理の基本的な食事療法や運動療法、薬物療法も参考にしましょう。
物忘れ改善・認知症予防にはこれ!

有酸素運動---脳と体を同時使う!
有酸素運動を1日30分程度、週に3回以上行うと効果的です。1日10分を3回でも構いません。運動をしながら脳に負荷をかける(頭を使う)とより効果的です。
運動習慣のない人は、10分程度の短い時間からはじめるなど、できることからはじめましょう。
主な有酸素運動 : ウォーキング / ジョギング / サイクリング / 水泳 など
○脳と体を同時に使う運動
- 有酸素運動をしながら計算をする
例)100から3ずつ引いていく(100-3=97,97-3=94,94-3=91・・・・) - 有酸素運動をしながら2人以上でしりとりをする
など
脳トレーニング---意識的に脳を働かせる!
- ■ボードゲーム
- 将棋 / 囲碁 / 麻雀 / オセロ / チェス / 囲碁 など
- 相手の裏をかいたり、先読みをするなど、手と脳を使いながら行うゲームは脳の活性化に繋がります。
人とのコミュニケーションをとりながら、楽しむことも脳の刺激となります。 - ■パズル
- ジグソーパズル / 数独 など
- パズルはジグソーパズルなど、どのような種類でも構いません。継続的に行うことが大切です。
- ■読み・書き・計算・音読
- 読み・書き・計算・音読は、おでこのあたりにある脳の前頭前野を刺激します。それにより、認知症の症状改善、予防が期待できます。
- ■習慣的な人とのコミュニケーション
- 友人や家族、親族と週1回以上会って会話をする / 習慣的な話し相手をつくる など
- 会話によって脳が活性化し、認知症予防の効果が期待できます。
食事---脳に良い栄養素・抗酸化作用のある食品を摂取!
- ■DHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)
- DHAやEPAには、記憶力や学習能力を向上・改善させる効果があり、認知症の予防に有効とされています。
- ○DHA・EPAを多く含む食品
さば / さんま / あゆ / ぶり / いわし / まぐろ など - ■ビタミンC・ビタミンE・βカロテン
- ビタミンCやビタミンE、βカロテンは体内の酸化を防ぐ働き(抗酸化作用)があります。
人の体は酸化が過剰になると、体内の機能が錆びついたような状態になり、正常に働かなくなってしまいます。すると生活習慣病などの問題やさまざまな病気、老化の原因となります。 - ○ビタミンCを多く含む食品
アセロラ / ピーマン(赤・黄・緑) / 芽キャベツ / パセリ / レモン / キウイフルーツ など - ○ビタミンEを多く含む食品
ひまわり油 / アーモンド、落花生、ヘーゼルナッツなどのナッツ類 / ほうれん草、ブロッコリーなどの緑黄色野菜 - ○βカロテンを多く含む食品
大葉 / モロヘイヤ / ほうれん草 / にんじん / 春菊 / 豆苗 / ニラ など - ■ワイン
- 少量の飲酒は認知症を予防する効果が期待できます。ただし、飲みすぎは禁物!大量の飲酒は認知症のリスクを高めてしまいます。
特に、ワインは抗酸化作用があるため、1日250ml~500mlの飲用は、認知症の発症を抑えるとされています。 - ■地中海式の食事
- 地中海式の食事とは、ギリシャやイタリア、スペインなどの地中海沿岸地域式の食文化です。
地中海沿岸地域の住民は、心血管疾患、糖尿病、がん、認知症が少ないとする研究があり、知られるようになりました。
これは、抗酸化作用のある食品が多く含まれていることが要因であると推定されています。 - ○地中海式の食事の特徴
- 血糖値の上昇が緩やかな食品を主食としている(全粒粉のパンやパスタ、芋類など)
- トマトなどの緑黄色野菜や果物、ナッツ類をよく摂取する
- オリーブオイルを主な脂肪源としている
- 青魚の摂取が多い
- 低脂肪の乳製品や魚介類、鶏肉の摂取が多い
- 赤身肉を少量摂取する程度で、肉類の摂取が比較的少ない
- 適量のワインを飲む
禁煙---40代50代からでも遅くない!
半世紀ほど前は、ニコチンには認知症の予防効果があるとされていました。しかし、現在ではこれは完全に否定され、喫煙は認知症のリスクを高めるとされています。
40代~50代で喫煙をしていても、以降で禁煙をした場合、喫煙を継続した場合よりも認知症の発症リスクが低くなるという研究結果(久山町研究)もあります。
認知症に限らず、喫煙が健康に悪影響を与えることは明らかです。早ければ早いほどよいですが、中年期以降の方も、もう遅いとあきらめず、できるだけ早く禁煙することが大切です。
認知症になるとどうなるの?

「軽度認知障害(MCI)」とは、物忘れなどの記憶障害はあっても日常生活に支障はほとんどない状態で、認知症ではありません。
ただ、認知症に移行してしまう可能性も高く、認知症の前段階の状態でもあります。では、認知症になってしまったらどうなるのでしょうか?
脳の認知機能障害、日常生活に支障がでます
認知症とは、いろいろな原因で脳の働きが悪くなったり、脳の細胞が死んでしまうことで、さまざまな認知機能障害が起こり、日常生活に支障が出る状態です。
具体的な認知症の症状は「中核症状」と「行動・心理症状」の大きく2つです。
○中核症状
脳の細胞が死んでしまうことによって起こります。次のような症状が現れて、周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
- 1) 記憶障害
- 新しいことが記憶できなくなり、直前に聞いたようなことも思い出せなくなります。進行すると、覚えていたはずの記憶も失ってしまいます。
- 2) 見当識障害
- まず、時間や季節の感覚が薄れていきます。
進行すると、迷子になったり、徘徊をするようになります。さらに進行すると、自身の年齢や人の生死、周囲の人との関係などの関する記憶がなくなります。 - 3) 理解・判断力の障害
- 考えるスピードが遅くなる、ふたつ以上のことをうまく処理できなくなる、些細な変化やいつもと違うことに混乱をします。
言われるがまま必要のない高額商品を購入してしまったり、自動改札やATMがうまく使えなくなります。 - 4) 実行機能障害
- 計画を立てられない、予想外の変化にうまく対応できないなど、物事を段取りよく進められなくなります。
リモコンなどの電化製品が使えなくなる、同じものを何度も買ってしまう、料理ができなくなるなど、今までできていたことができなくなくなります。 - 5) 感情表現の変化
- その場の状況が正しく解釈できなくなるため、見当違いの反応や、通常では予想できない思いがけない感情を示したりします。
○行動・心理症状
本人がもともと持っている性格や環境、家族関係などのさまざまな要因が絡みあって起こる心理面・行動面の問題です。
主な症状
- 徘徊
- 暴力や暴言
- 不潔行為
- ものを盗まれたなどの妄想や幻覚
- 不安や抑うつ状態
など
主な認知症の種類

認知症の代表的なものとして、以下の4つがあげられます。患者数は、アルツハイマー型認知症が一番多く、次いで多いのが脳血管型認知症です。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
アルツハイマー型認知症
βアミロイドやタウと呼ばれるたんぱく質が老廃物となって脳の神経細胞の間に溜まり、脳の働きが悪くなることで起こります。
加齢や遺伝が危険因子となることが明らかになっている他、生活習慣病である高血圧や糖尿病もアルツハイマー型認知症になる危険因子であることがわかっています。
脳血管性認知症
脳の血管がつまることで起こる「脳梗塞」や脳の血管が破れてしまうことで起こる「脳出血」など、脳の血管の問題によって起こります。
動脈硬化を起こす病気が原因となり、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など、生活習慣病や生活習慣に関わることが血管性認知症になる危険性を高めます。
レビー小体型認知症
α-シヌクレインというたんぱく質が老廃物となって脳の神経細胞内にレビー小体という塊をつくり、脳の働きが悪くなることで起こります。
体の動きが硬くなり、にぶくなるパーキンソニズムという症状や、幻覚(特に幻視)、夢を見て騒ぎ出すREM睡眠時行動異常などが高頻度で合併します。
前頭側頭型認知症
以前はピック病と呼ばれていました。
脳の前方にある前頭葉や側面の側頭葉が委縮することで起こります。
反社会的な行動をとったり、毎日同じ行動を繰り返すなど異常行動が前面に出るため、他の精神病と間違えられることがあります。
65歳以上の4人に1人は認知症 または 軽度認知障害(MCI)

厚生労働省が2015年に発表した調査では、2012年時点での認知症患者は462万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者は400万人とされ、65歳以上の4人に1人が認知症 または 軽度認知障害と推計されました。
さらに、2025年の認知症患者は当時の患者数の1.5倍以上である700万人を超えるとする推計値を発表しています。
この結果から、認知症はもちろん軽度認知障害(MCI)も身近な病気であることがわかります。
「物忘れが多いかな?」と感じたら医療機関を受診しましょう
現在、認知症には根本的な治療法がありません。
認知症の予防はもちろんですが、軽度認知障害(MCI)の段階から早期発見、早期治療・対策をすることは、認知症の発症を予防したり、発症を遅らせる上でとても重要になります。
自分自身はもちろん、家族や大切な人に「最近物忘れが多いな」「いつもの物忘れと何か違う感じがするな」などと感じたら、医療機関を受診してみましょう。
単なる物忘れと済まさずに、物忘れの原因を知り、適切な治療や対策につなげましょう。
■参考サイト
- 政府広報オンライン「もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン」
- 厚生労働省「認知症を理解する」
- 国立研究開発法人国立循環器病研究センター
「認知症を理解するために」
「認知症とたたかう」
認知症で気になる症状がある場合は、近くの病院に相談しましょう
を探す。
※当コラムは東京内科医会のご協力によって作成されています。
東京内科医会は、常に最新の医学知識を学び、最良の医療を実践する魅力を持った何かを主体に、診療を行っている医師の集まりです。
コラム監修
きうち内科クリニック
東京都江戸川区本一色3-39-2
木内 章裕 院長
日本内科学会認定内科医、日本老年医学会専門医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医

お役立ち医療コラムについて
- 【提供元】
- お役立ち医療コラムは、株式会社eヘルスケアが提供しています。
- 【免責事項】
-
- コラムの内容については細心の注意を払い掲載しておりますが、情報の確実性や安全性に関して保証されているものではありません。 また、医学の進歩により常に最新の情報とは限りませんので、あらかじめご了承ください。
- 病気に関する予防や治療法をはじめとした医学的情報は、医師やその他医療従事者による診断に代わるものではありません。 必ずしも全ての方に有効とは限りませんので、個別の症状については必ず主治医にご相談の上、適切な診断と治療を受けていただきますようお願いいたします。
- 【著作権】
- お役立ち医療コラムの著作権は、株式会社eヘルスケアに帰属します。 営利・非営利を問わず、無断で複製、転載、配布等の行為を行うことは一切禁止とします。
- 【その他】
- 株式会社eヘルスケアでは、病気や治療に関するご相談や各医療機関についての個別のお問い合わせ・紹介などは受け付けておりません。
本サイトは、eヘルス倫理コード2.0基準による日本インターネット医療協議会(JIMA)トラストマーク付与の認定を受けています。