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【医師監修】乳がん病変組織における遺伝子検査:あなたにあった乳がん治療を選択するために

2019年3月11日 更新
乳がん

目次

  1. 乳がんとは?
  2. 乳がんの検査と治療の流れ
  3. 術後薬物療法の選び方
  4. 多遺伝子アッセイとは
  5. おわりに

乳がんとは?

乳がんは、日本人女性が罹患するがんの中で患者数が一番多く、今も増加傾向にあります。各種の検査結果を基に乳がんの進行度は0からⅣの5段階の病期(ステージ)で分類されますが、早期発見などにより、ステージが低いほど治る可能性は高くなります。最近、ホルモン感受性やがん細胞の活動性などにより、乳がんをさらにいくつかのサブタイプに分類することが行われるようになりました。乳がんの治療は、手術、薬物療法、放射線治療などを組み合わせて行われますが、サブタイプ分類が、治療法を選択する上でも役立つことが明らかになってきました。

乳がんの検査と治療の流れ

乳がんと診断されると、視触診やマンモグラフィー、超音波、MRIなどの画像検査、そして細胞診、組織診などの病理検査が行われます。そしてその結果と、場合によっては多遺伝子アッセイの結果に基づいて、患者さんに最も適した治療法が選択されます。

1.術前検査
しこりの大きさ、広がり、位置、リンパ節への転移の有無などを調べます。
2.手術方法の決定
がんの大きさが比較的小さい場合には乳房温存手術を行い、温存手術が困難であると考えられる場合は乳房切除手術を行います。手術前に薬物療法を行い、がんを小さくしてから手術を実施することもあります。
3.術後治療の検討
手術でわかったがんの広がりの情報と病理検査の結果により、がんの進行度(ステージ)を決定し、がんの性質を表すサブタイプに分類します。総合的に判断し、術後の治療方針を検討します。
4.多遺伝子アッセイ
患者さん一人ひとりにより適した術後治療方針を選択する目的で、最近行われるようになった検査です。通常の検査に加えて患者さんご自身が選択する術後検査の一つです。この検査により、がんの再発の可能性と化学療法の必要性について、参考になる情報を得ることができます。尚、多遺伝子アッセイは、体細胞の病変により生じたがん細胞での遺伝子の状態を調べる検査であり、その人が本来持っている体質を決定し、次世代に受け継がれる遺伝子(生殖細胞の遺伝子)の情報を調べる遺伝学的検査とは異なります。
5.術後治療
ステージやサブタイプ分類、多遺伝子アッセイなどの結果に応じて、薬物療法(ホルモン療法・化学療法・分子標的治療など)や放射線治療が行われます。
図1

術後薬物療法の選び方

術後薬物療法を行うかどうかは、各種検査の結果で決められます。薬物療法にはホルモン療法や化学療法、分子標的治療があり、これらの単独かあるいは組み合わせにより行われるのが一般的です。治療法の選択にあたっては、以下に述べるサブタイプ分類が重要な情報を提供します。

1.サブタイプ分類

女性ホルモンに結合する受容体(ホルモン受容体)をがん細胞が持っているかいないか、あるいは細胞の増殖に関係するHER2というタンパク質をがん細胞が過剰に持っているかどうか、そしてがん細胞の増殖能が高いか低いかで、乳がんを分類することができます。これをサブタイプ分類といいます。乳がんのがん細胞の個性の違いでサブタイプが分かれます。サブタイプによってがん細胞の性質は異なり、それぞれの特徴に合わせた薬物療法が推奨されています。

特にホルモン受容体陽性の乳がんはルミナールタイプと呼ばれます。日本乳癌学会の乳がん患者登録2011年次報告によると、ルミナールタイプは日本人女性における乳がん全体の80%を占めており、人口の高齢化に伴ってさらに増加傾向にあります。このタイプの乳がんに対しては、ホルモンの働きを妨げるホルモン療法が有効です。

サブタイプを知り分類することで、より適切な治療を選択することができるようになりました。しかし、日本人にもっとも多いルミナールタイプは個人差が大きいと考えられ、さまざまな臨床試験の結果はあるものの、ホルモン療法のみでよいか、あるいは化学療法を加える必要があるかどうかの判断は、経験を積んだ専門医にとっても容易なものではありません。そのため最近では、手術で切除したがん組織を用い、術後にその遺伝子の発現状態(活動の状況)を調べ、治療選択における判断の参考とする方法が広まってきました。

図2

2.サブタイプ別の治療法

ルミナールタイプ
がん細胞がホルモン受容体を持っているタイプで、多遺伝子アッセイにより再発リスクの高さを知ることができます。比較的再発リスクが低い場合には、ホルモン療法が推奨されていますが、再発リスクが高いと思われる場合には、ホルモン療法に加えて化学療法が行われることもあります。
トリプルネガティブタイプ
ホルモン療法や分子標的治療の効果が低いため、化学療法を行います。
HER2タイプ
HER2を標的とした分子標的治療と化学療法の併用が推奨されています。

多遺伝子アッセイとは

患者さん一人ひとりの乳がんの性質をより詳しく知るために、乳がん細胞の多数の遺伝子の発現状況や活性度を調べる検査が多遺伝子アッセイです。サブタイプ分類に加え、手術時に摘出されたがん組織の一部を用いて、乳がんに関連する20~100程度の遺伝子の発現を測定・解析することで将来の再発リスクを予測し、一人ひとりの患者さんに適した術後治療法の選択をサポートするために行われます。多遺伝子アッセイは国内外の診療ガイドラインで推奨されている検査です。国内では2015年以降、日本乳癌学会が作成している「乳癌診療ガイドライン」で多遺伝子アッセイが推奨されています。

1.対象となる患者さん

基本的に、乳がん手術を受けられる患者さんで、ルミナールタイプの方が対象となります。現在、実用化されている検査は数種類あります。一般的には、術前化学療法を受けていない方で、主にリンパ節転移陰性、ホルモン受容体陽性、かつ浸潤性乳がんなど、全ての条件が当てはまる女性の患者さんが、多遺伝子アッセイの対象となります。ご自身が対象かどうか、また検査を受ける必要があるかどうかについては、主治医の先生にご相談ください。

2.検査の目的

がんの特性はそれぞれの患者さんによって異なります。多遺伝子アッセイから得られる情報によって、主治医の先生は患者さん一人ひとりに合った最適な治療計画を立てることができます。患者さんも、自分の病気の状態をより正確に知ることで、納得して治療を受けることができると考えられます。

3.検査の流れ

図3

4.検査でわかること

乳がんに関係する遺伝子の状態を調べることで、患者さんが将来がんを再発しやすいかどうか、あるいはその患者さんのがんが薬剤に対してどう反応するか、などの特徴がわかります。

多遺伝子アッセイの結果、乳がんの再発リスクが低いと判定された場合、不必要な術後化学療法を省略することで、抗がん剤による副作用の負担や不安を軽減し、さらに医療費を削減することができます。

逆に、乳がんの再発リスクが高いと判定された場合、適切な術後治療を行うことによって、乳がんの再発の可能性が低くなり、将来への不安の軽減につながると考えられます。

5.より適切な乳癌治療の選択のために

次世代へ受け継がれる遺伝子変異は生涯変化することがなく子供にも伝わるものなので、知るのが怖いと思ったり、他人に知られるのが嫌と思ったりする人もいるかもしれません。しかし多遺伝子アッセイは、体細胞の病変により生じたがん細胞での遺伝子の状態を調べる検査であり、その人が本来持っている体質を決定し、次世代に受け継がれる遺伝子(生殖細胞の遺伝子)の情報を調べる遺伝学的検査とは異なります。これまでに述べてきたように、多遺伝子アッセイは、患者さんのがんがどのような個性であるのかを知ることで、その患者さんにより適した治療法の選択を可能にするとともに、本来は適切ではない治療を受けることで被る可能性があった副作用を回避することにも役立ちます。より自分に適した治療法でがん治療に臨むことができる、多遺伝子アッセイはそんな患者さんに安心を提供する検査なのです。

おわりに

乳がんの病態は非常に多様で、がんの性質は患者さんそれぞれで異なります。多遺伝子アッセイは、一人ひとりの患者さんに最適な治療(個別化医療)を行うための検査です。

ただし多遺伝子アッセイは、再発や治療効果を100%予測するものではありません。具体的な治療方針の決定は、術中に得られた情報や他の検査の結果を合わせて、患者さんご自身の考えと主治医の先生の判断により行われます。

検査の詳細や疑問に思われることがあれば、主治医の先生にご相談ください。

■参考サイト
シスメックス株式会社 多遺伝子アッセイ「Curebest™ 95GC Breast
日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン

コラム監修

直居 靖人
大阪大学大学院 医学系研究科 乳腺・内分泌外科 医学部講師

大阪大学医学部医学科卒業。外科医師。医学博士。箕面市立病院外科、吹田市民病院外科を経て、2012年4月より、大阪大学大学院乳腺内分泌外科に助教として勤務。2014年4月から大阪大学医学部学内講師。2011年には、Curebest™ 95GC Breastなどの開発が評価されて、日本乳癌学会研究奨励賞を受賞。専門分野は、乳癌の個別化医療を目指した多遺伝子アッセイによる再発予後予測法、および薬剤感受性予測法の研究開発、外科学一般など。


四元 淳子
国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学専攻遺伝カウンセリング分野 講師

お茶の水女子大学大学院遺伝カウンセリングコース博士課程修了後に昭和大学病院へ。専門分野は、遺伝性腫瘍、周産期の遺伝カウンセリング。現在は、国際医療福祉大学大学院で教鞭をとる傍ら、グループ病院で遺伝カウンセリング、臨床遺伝学関連の研究に取り組む。日本認定遺伝カウンセラー協会理事、日本人類遺伝学会評議員、日本遺伝カウンセリング学会評議員。

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