卵巣嚢腫の原因・症状・治療法と予防のポイントを解説
医師紹介
卵巣嚢腫とは
卵巣内にできる腫瘍のうち、腫瘍の中に脂肪などの液体が溜まっているものを卵巣嚢腫と呼びます。そのほとんどは良性です。内容物の種類によって、いくつかの種類に分けられます。主なものには、月経時の経血が溜まる「チョコレート嚢胞」、脂肪や歯、髪の毛などの組織が溜まる「成熟嚢胞性奇形腫」、さらさらした透明の分泌液(漿液/しょうえき)が溜まる「漿液性嚢腫」、ゼリー状で粘り気のある液体が溜まる「粘液性嚢腫」などがあります。
原因
チョコレート嚢胞(子宮内膜症性嚢胞)
子宮内膜が卵巣内でつくられること(子宮内膜症の一種)が主な要因となります。通常、子宮内膜は子宮内で作られ、必要がなくなると月経時に経血として体外に排出されます。この子宮内膜が卵巣内で作られると、それを排出することができず、卵巣内に溜まっていくことで起こります。その溜まった液体がチョコレートのような状態であることから、チョコレート嚢胞と呼ばれています。
成熟嚢胞性奇形腫
受精していないにもかかわらず、卵子が異常な細胞分裂を起こして、歯や髪の毛などの人体組織をつくり出すことで起こると考えられています。ただ、なぜそのようなことが起こるかはわかっていません。
漿液性嚢腫
さらさらとした透明の分泌液が卵巣内に溜まることで起こりますが、そのはっきりとした原因はわかっていません。
粘液性嚢腫
ゼリー状で粘り気のある液体が卵巣内に溜まることで起こりますが、そのはっきりとした原因はわかっていません。
症状
嚢腫が小さいうちは、ほとんど症状がありません。そのため、本人が気づかないうちに巨大化することがあります。時に、成人の頭の大きさにまでなることがあります。嚢腫が大きくなるにつれて以下のような症状があらわれます。
〇 主な症状
- 腹部の張り
- 下腹部の痛み
- 頻尿
など
さらに重症化して嚢腫の破裂やねじれ(茎捻転/けいねんてん)が起こると、下腹部に突然、激しい痛みが起こることがあります。
検査・診断
腹部や経腟での超音波(エコー)検査で嚢胞の有無を確認します。また必要に応じて、嚢胞の詳しい状態や悪性・良性の予測のために、血液検査やCT検査、MRI検査などが行われます。
治療・治療後の注意
卵巣嚢腫は基本的に、自然に小さくなることや、薬などで小さくすることができないため、主な治療は「外科的治療」となります。ただ、嚢胞の大きさが6cm未満程度で症状がない場合は、経過観察となることもあります。その場合は、だいたい3か月~6か月ごとに定期的に受診、検査をして経過をみます。
外科的治療
嚢胞の大きさが、茎捻転のリスクが高くなる6cm以上程度の場合や、症状がある場合などに検討されます。
内視鏡を使った腹腔鏡下手術 もしくは 腹部を切開して行う開腹手術によって、嚢胞を取り除く治療です。嚢胞だけを取り除く場合と、卵巣ごと取り除く場合、卵巣と卵管も取り除く場合があります。どちらの手術でどこまでを取り除くかなどは、嚢胞の大きさや状態、個人の希望などを踏まえて検討されます。
予防
チョコレート嚢胞については、子宮内膜症が主な要因であるため、強い月経痛があるなど、子宮内膜症が疑われる症状がある場合や、子宮内膜症と診断されている場合は、婦人科のある医療機関を受診し、適切な検査や治療を受けることが予防につながります。
それ以外の卵巣嚢胞については、直接的な原因がわかっていないため、特定の予防方法はありません。
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医師紹介
1991年 東京医科大学産科婦人科学分野に入局。1992年からは上都賀総合病院や蕨市立病院の産婦人科に勤務、1995年以降は東京医科大学の産婦人科分野関連機関にて、助教や部長代行を務める。現在は、東京医科大学医学教育学分野の講師を務める。産婦人科指導医(日本産科婦人科学会)、母体・胎児指導医(日本周産期・新生児医学会)、母体保護法指定医(東京都医師会)。専門分野は周産期医学。