ハンディファンが「目」にダメージを与える!? 眼科医が警告する意外なリスク

ハンディファンを目に当てすぎると、「眼の皮がむける」ことがあるからです。
医師紹介
網膜内科を専門とし、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症、近視性網膜疾患など、視力に大きく関わる網膜疾患の診療・レーザー治療に数多く携わっている。近年は、増加する子どもの近視に強い危機感を持ち、小児の近視進行を抑える治療や生活指導にも力を入れている。また、一般誌やWebメディアでの執筆・情報発信を通じて、目の健康に関する正しい知識の普及に努めているほか、子どもの近視対策を社会全体で考える必要性から、芦屋市政への提言も行っている。さらに、眼科教育サロンを主宰し、若手眼科医や医療スタッフの育成など、後進の教育にも積極的に取り組んでいる。
目次
眼にも「皮」のような表面がある
黒目の表面にある透明な組織を「角膜」といいます。角膜のいちばん外側は、角膜上皮(かくまくじょうひ)という薄い細胞の層に覆われています。皮膚とは異なりますが、外部の刺激から目を守る「皮」のような役割をしています。
この角膜上皮の一部がはがれた状態を、「角膜びらん」と呼びます。分かりやすくいえば、「眼の表面の皮がむけた状態」です。
角膜には知覚神経が非常に多いため、わずかな傷でも、以下のような症状が出ることがあります。
・強い痛み
・ゴロゴロする異物感
・涙が止まらない
・目を開けにくい
・光がまぶしい
・視界がかすむ
ハンディファンの風が「涙の膜」に影響し、角膜に傷がつく!?

では、なぜハンディファンの風で角膜上皮が傷つくのでしょうか。ポイントとなるのは、角膜を守っている「涙の膜」です。
角膜は、直接空気にさらされているように見えますが、実際には、その表面を非常に薄い涙の膜が覆っています。涙は単に目を濡らしているだけではありません。角膜の表面を滑らかに保ち、まばたきによる摩擦を減らし、乾燥やほこりなどから角膜上皮を守ることも涙の役割なのです。
ところが、ハンディファンなどで目に風を当て続けると涙の蒸発が速くなり、「涙の膜」が途切れてしまう可能性があります。
「涙の膜」が途切れると、角膜の一部が外気に直接さらされることになります。その状態でまばたきを繰り返すと、乾燥した角膜上皮に摩擦が加わり、次のような症状が出ることがあります。
・少し乾く
・目がかすむ
・ゴロゴロする
その後も風を当て続けると、角膜表面の細胞が傷つき、程度が強くなると角膜上皮がはがれて、前述した「角膜びらん」になります。
風が角膜を直接削っているわけではありません。風が涙を奪い、涙に守られなくなった角膜の表面が傷つくのです。
わずか5分の風で、涙が減るという研究結果も
実際に、人の目に風を当てて影響を調べた研究があります。
正常な目の人9人と、涙が短時間で切れる「短BUT型ドライアイ」の人9人を対象に、風速1.5±0.5m/sの気流を5分間当てるというもので、その結果「短BUT型ドライアイ」の人では、下まぶたの縁にたまっている涙の量を示す「涙液メニスカス」の高さと面積が有意に減少しました。
つまり、もともと涙が不安定な人であれば、わずか5分間の風でも、目の表面に保たれている涙が減ることが確認されたのです。
また、風を受けた後には、まばたきの回数も増えていました。このことから、目の表面が乾燥し、それを補おうとしていたと考えられます。
涙液(るいえき)の菲薄化や破綻には、涙の蒸発が大きく関係します。乾燥による涙液の高浸透圧化は、眼表面の炎症や細胞障害につながることも知られています。
目に風を当て続ける「直風ドライ」、通常のドライアイとの違いは?
目に風を当て続けることが問題なので、もちろんハンディファンだけの話ではありません。
扇風機、エアコン、車の送風口、ドライヤー、サーキュレーターなどの風を目に直接当て続けても、同じことが起こります。
正式な病名ではありませんが、私はこうした状態を、わかりやすく「直風ドライ」と呼びたいと思います。
普通のドライアイとの違いは、風を避ければ改善しやすいことです。ところが原因に気づかず、乾燥した目にさらに風を当て続けている人も少なくありません。
とくに注意が必要な人は?
誰でも目に風を当て続ければ乾燥しますが、特に影響を受けやすいのは、
・もともとドライアイがある人
・コンタクトレンズを使用している人
・目がゴロゴロしやすい人
・角膜に傷がついたことがある人
・エアコンの効いた乾燥した場所にいる人
・目の手術を受けたばかりの人
です。
コンタクトレンズを装用している目では、涙液の状態が裸眼とは異なります。そこへ近距離から風を送り続けるのは、あまり勧められません。
ハンディファンは「目」ではなく「首元」に当てよう

もちろん、ハンディファンを使ってはいけないわけではありません。大切なのは、風を目に直接当て続けないことです。
顔の正面ではなく、首元や胸元に向けましょう。顔に風を送る場合も、目から距離を取り、同じ場所に長時間当て続けないようにしてください。
もし、使用中に
・目が痛い
・ゴロゴロする
・涙が止まらない
・まぶしくて目を開けにくい
・急にかすんで見える
といった症状が出たら、まず風を止めてください。症状が続く場合は、単なる乾燥ではなく、すでに角膜上皮が傷ついたり、はがれたりしている可能性があります。
暑い夏を乗り切るための便利なハンディファンですが、使い方次第で「目には逆風」になるかもしれません。
ハンディファンは、目ではなく首元へ。涼しい風が、涙までさらっていかないようにしてください。
<参考文献>
1.Koh S, Tung C, Kottaiyan R, et al. Effect of Airflow Exposure on the Tear Meniscus. Journal of Ophthalmology. 2012;2012:983182. doi:10.1155/2012/983182.
2.Willcox MDP, Argüeso P, Georgiev GA, et al. TFOS DEWS II Tear Film Report. Ocular Surface. 2017;15(3):366–403. doi:10.1016/j.jtos.2017.03.006.
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※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。

