腹痛の種類と、考えられる病気とは

医師紹介
2009年防衛医科大学校医学科卒業。防衛医科大学校病院、自衛隊横須賀病院、自衛隊舞鶴病院などで内科・消化器内科診療に従事した後、がん研有明病院 下部消化管内科にて内視鏡診療・治療を専門に従事。2020年に同病院副医長に就任。2024年12月、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニックを開院。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。
目次
腹痛の部位と病気
一口に腹痛と言っても、場所によって腹痛の種類や考えられる病気はさまざまです。

上腹部の痛み
おへその周囲から少し上のあたりをみぞおち(心窩部)と呼びます。この場所には胃や十二指腸、胆嚢、膵臓などの部位が集まっており、痛みを感じる神経が多く集まっています。
ここに痛みを感じる場合は、これらの臓器に関連する異常が疑われます。
臍部・下腹部の痛み
一方で、おへその周囲(臍部)から下腹部にかけて感じる痛みは腸の異常によるものが多く、その場合下痢(水様便)や便秘、血便、便の色や形の異常などの症状を伴うことがあります。
下腹部を中心に痛みを感じる場合は、月経と関連する病気(女性の場合)や膀胱などの泌尿器関連の病気が疑われます。
腹痛の種類
痛みを感じる場所のほか、「どのような痛みかたをしているか」も、腹痛の原因と大きく関わってきます。
周期的に続く鈍痛を特徴とする「内臓痛」
痛みの場所が明確ではなく、周期的になんとなく続く鈍い痛み(鈍痛)を特徴とする痛みは「内臓痛」と呼ばれます。胃や腸などの臓器自体や、それらをつなぐ消化管の収縮や伸展、けいれんや拡張などにより起こる痛みであり、その痛みは自律神経を伝わって感じるため、原因となっている場所の特定がしにくいという特徴があります。痛みのほか、吐き気や悪心、冷や汗などの症状が同時に出ることも多いです。
鋭く刺すような痛みを特徴とする「体性痛」
痛みを感じる場所がはっきりしており、持続的な鋭い痛みは「体性痛」として区分されます。
内臓の周囲にある膜(腹膜や横隔膜、腸間膜など)には知覚神経が分布しており、知覚神経が直接刺激されて痛みを感じるため、鋭く局所的な痛みを感じやすくなります。
腹痛の特徴ごとに考えられる病気
次に、痛みを感じる場所や痛み方に応じて、どのような病気が考えられるか、いくつかのケースをご紹介します。
みぞおちから脇腹にかけてキューッと痛む
胃や腸が動くことにより、みぞおちから脇腹あたりの、「キューッ」と締めつけられるような痛みを特徴とする「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」が考えられます。いずれも、胸やけや胃もたれ、吐き気や嘔吐などを伴います。また出血しやすい病気のため、嘔吐物や便が黒っぽく変色することがあります。
食べ物が胃の中に入ると、胃壁から「胃酸」が分泌され消化されます。胃酸は強い酸性であり、刺激の強い分泌液です。その胃酸から胃内部の粘膜を守るために、「胃粘液」も同時に分泌されます。健常な胃の状態だと、胃の内部が多少傷ついたとしても、胃粘液により粘膜が守られ、周囲の細胞がその傷を修復します。しかし、胃粘液によるバリアー機能が低くなってしまうと、胃酸が胃の内部を傷つけてしまい、潰瘍と呼ばれる状態へと悪化していきます。
こうした胃酸による攻撃と粘液による防御のバランスを崩す原因として、「ピロリ菌」と「鎮痛剤」が挙げられます。
ピロリ菌の感染経路は完全には解明されていませんが、主に幼少期に家族内での経口感染によって広がると考えられています。かつては井戸水を飲むなどの経口感染も一因とされていました。
ピロリ菌はアンモニアや毒素などを作り出して胃の粘膜を傷つけてしまい、その傷が胃酸によって潰瘍の状態にまで悪化してしまうのです。ピロリ菌は自身を胃酸から守る仕組みを持っており、胃酸によって死滅することはありません。近年、ピロリ菌が胃がんの発症にも大きく関わっていることが判明しているため、感染が確認された場合にはしっかりと除菌治療を行うことが重要です。
非ステロイド性の鎮痛剤も、その作用により胃粘膜を守るプロスタグランジンの産生を抑えてしまい、結果として胃の粘膜を傷つけることがあります。薬店で購入可能なロキソプロフェン(ロキソニン)やアスピリン(バファリンなど)をよく服用する方は特に注意が必要です。鎮痛剤が医療機関で処方される際には、スクラルファート、レバミピドなど胃粘膜を保護する薬が同時に処方されることが多いようですので、医師が指示する用法・用量に従って服用して胃を守るようにしましょう。
そのほか、ストレスなどが原因で胃粘膜の防御機能が崩れ、潰瘍を起こす場合もあります。
どのような原因であれ、胃酸の分泌を抑える薬と胃の粘膜を保護する薬とを服用し、胃酸と胃粘膜の防御とのバランスを元に戻す治療を行うことになります。症状が悪化している場合には、入院や手術を要する場合がありますので、そのような事態を避けるためにも、異常を感じたら早めに医療機関に受診するようにしましょう。
■参考:守口敬仁会病院「胃・十二指腸潰瘍とは」
あばら骨の右下が強く痛む
胃の右側に位置し、脂肪を消化する胆汁を貯蔵しておくための「胆嚢」や、ほかの臓器との連結部分である「胆管」で何らかの炎症が起こっている可能性があります。後者では黄疸が出ることが多いようです。いずれも初期は不快感や鈍痛から始まり、進行に伴い痛みが強くなっていき、冷や汗が出る、呼吸が苦しくなるほどの痛みを感じることもあります。これらの病気は、肝臓と十二指腸をつなぐ管の中にできてしまった石(胆石)を原因とする場合が多く、胆石は肥満体型の方や40歳以上の方、出産経験の多い女性、糖尿病や脂質異常症の患者さんに多く見られます。
初期の状態で発見できれば抗菌薬(抗生物質)での治療で済む場合もありますが、進行してしまうと入院治療や手術が必要となってしまいます。また胆石が原因の場合は内視鏡手術などで除去する必要がありますので、このような痛みを感じたら早めに診察を受けるようにしましょう。
■参考:日本肝胆膵外科学会「急性胆のう炎と急性胆管炎」
発熱があり、嘔吐や下痢を伴う腹痛がある
感染性胃腸炎が疑われる症状です。ウイルス性胃腸炎の場合、特効薬がないため症状を和らげる治療(対症療法)が中心となります。細菌性胃腸炎の場合でも、すべてで抗菌薬が必要になるわけではありません。原因となる細菌や症状の重さによっては、脱水を防ぐ点滴や整腸剤などの支持療法が中心となり、必要と判断された場合にのみ抗菌薬を使用します。
原因となるウイルスや細菌によっては、感染力が非常に強いものもありますので、二次感染の予防に十分注意しましょう。
ウイルス性胃腸炎の場合、抗菌薬は効果がありません。あまっている抗菌薬を勝手な判断で服用することは絶対に避けましょう。
■参考:にじいろ子どもクリニック「感染性胃腸炎」
鈍痛があり、お腹が張って頻繁に鳴り、ガス(おなら)がたまっている
過敏性腸症候群が疑われやすい症状です。この病気は、症状が現れては治まるというサイクルが不定期に繰り返される傾向があります。便の状態(軟便)や頻度(便秘や下痢)などと連動して、お腹の痛みや違和感の感じ方が変化します。
症状にあわせて便をやわらかくする薬や下痢を抑える薬、消化管の動きを整える薬、整腸剤などを用いながら、食事内容や食事のとり方を見直すことが治療の中心となります。
ストレスなど心理的な要因が関わっている場合には、必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬が使われることもあります。
■参考:MSDマニュアル家庭版「過敏性腸症候群 (IBS)」
みぞおちが痛み、右下腹部あたりに痛みを感じる場所が変わった
初期はみぞおちあたりが漠然と痛み、胃の重さや気持ち悪さ、吐き気などを感じますが、時間が経つと痛みが右下腹部に移っていきひどくなっていくーこれは虫垂炎の典型的な症状です。放っておくと炎症が広がり「腹膜炎」を併発し、最終的には敗血症や多臓器不全へとつながる状態になってしまいます。速やかに医療機関を受診し、治療が必要になります。
■参考:くにちか内科クリニック「虫垂炎の痛み」
胸焼けがして酸っぱい感じがする、食後にみぞおちが痛む
胃からの逆流を防ぐ筋肉の働きが緩んでしまい、寝ているときなどに胃酸が逆流してしまうことによって起こる逆流性食道炎に典型的な症状です。のどの違和感や声がかすれるなどの症状が出ることもあります。
早食いや食べ過ぎの傾向がある人、食べてすぐに横になることが多い人などがかかりやすいとされています。
胃酸を抑える内服薬を服用すると同時に、食事の時間や内容を変えるなどの生活習慣の改善がおもな治療法となります。
■参考:国立長寿医療研究センター「逆流性食道炎ってどんな病気?」
下腹部から腰にかけて、叩かれたような我慢できない痛みがある
腎臓でできてしまった結石が尿の通り道に引っかかってしまう「尿路結石」(腎臓結石、尿路結石、膀胱結石、尿道結石の総称)が疑われます。
単純な尿路結石では発熱はあまりみられませんが、発熱を伴う場合は結石が原因で尿の流れがせき止められ、腎盂腎炎を併発している可能性があり、早急な受診が必要です。
日常的な水分摂取が少ない人や汗をかきやすい人、肉類や糖分、塩分の多い食事を好む人に多い傾向があります。
我慢できないほどの痛みを感じることが多いので、無理に我慢しようとせず早期に医療機関を受診しましょう。
■参考:すやま泌尿器科クリニック「尿管結石」
腹痛と下痢、気持ち悪さや吐き気が続き、発熱がある
便秘の状態が長く続いたりすると、排便の際にいきむことが増えてきます。これは大腸内の圧力が上昇している状態であり、繰り返すことで腸の弱い部分が外に押し出されて「憩室」と呼ばれる膨らみが発生してしまうことがあります。この憩室の中で細菌が繁殖し炎症を起こす「憩室炎」の可能性が考えられます。
憩室のある場所によって痛みを感じる場所が異なりますが、アジア人では腸の右側に発生することが多いようです。
■参考:同友会グループ「大腸憩室炎とは?」
胃の痛みやもたれ、胸焼けが続くが、病院に行っても何の異常も発見されない
胃カメラなどの検査で明らかな異常がみつからないにもかかわらず、胃のもたれや痛みなどの症状が続く状態を「機能性ディスペプシア」と呼びます。胃の動きが悪くなったり、胃の知覚が過敏になったりしていることが原因と考えられており、ストレスや睡眠不足が症状を悪化させることもあります。
異常が見られないためストレスの管理や心理的なケアが必要になることが多く、根気よく治療していくことが必要になります。
■参考:夙川内視鏡内科まえだクリニック「そのおなかの痛みではこんな病気を疑います」
病院に行くべき腹痛の特徴

特に注意が必要なのは、刺すような痛みを感じるときや我慢できないほどの痛みを感じるとき、痛みがいつもと違うと感じた場合や時間が経つにつれて痛みの質や重みが変わるような場合などです。
このようなケースでは、できる限り速やかに医療機関を受診するようにしましょう。特に、冷や汗が出る、顔色が悪い、立ちくらみがする、黒色便や血の混じった便が出る、といった症状を伴う場合は、救急受診も含めて早急な対応が必要になります。
「どのような場所で」「どのような痛みを感じるか」は腹痛の原因を突き止める上で重要な要素です。しかし、痛みを感じている場所と原因となっている臓器の場所とが一致しないケースも数多く見られるため、最終的に腹痛の原因や対処を行うためには、お医者さんによる専門的な診察が必要です。
身体を温め楽な姿勢をとる、暴飲暴食を避け食事の内容を見直す、市販薬を服用するなどで一時的な対処を行うことも重要ですが、どんな症状であれ、場所や痛みの質から勝手に判断をすることは避けましょう。少しでもおかしいと思ったらお医者さんに見てもらうことを勧めします。特に市販薬の服用は、場合によってはより症状を悪化させてしまうことにつながりますので、痛みの度合いや緊急度などを慎重に判断するようにしましょう。
たとえば、強い腹痛に対して市販の鎮痛薬(とくにロキソプロフェンなどのNSAIDs)を自己判断で飲み続けると、かえって胃腸の粘膜を荒らしてしまうことがあります。また、細菌性腸炎が疑われるような高熱と激しい下痢に対して、自己判断で下痢止めを飲むと、菌や毒素が体内にとどまり症状が悪化するおそれもあります。
まとめ
今回のコラムでは、「腹痛を感じたときにどのような病気を疑うか」についてまとめました。
いろいろなケースについて書きましたが、お腹の痛みや下痢、吐き気や気持ち悪さなどを症状として感じる病気は数多くあることがわかっていただけたと思います。よくある症状だからといって安易に判断せず、「いつもと違うな」、「我慢できない!」と感じた際には、早めにお医者さんに受診するように心がけましょう。

