心房細動の治療|治療薬 カテーテル・アブレーション手術【医師監修】不整脈 心臓がドキドキ めまいの症状 … 心不全や脳梗塞のリスクも
もしかしたら、「心房細動」かもしれません。心房(心臓の一部)が細かく震えて、不整脈を起こす。実は、年をとれば誰でも発症のおそれがある、ごくありふれた病気です。
しかし、だからといつて放置するのは、危険。脳梗塞や心不全のリスクを高めてしまいます。
この病気の症状や治療法、つきあい方について、心臓血管研究所の山下武志先生にうかがいました。
医師紹介
目次
心房細動とはどんな病気?
--- いわゆる不整脈のことですか?
不整脈には、頻脈(脈が速くなる)と徐脈(遅くなる)があります。心房細動は、前者。心拍が速くなって、てんでんバラバラに脈が飛びます。
通常、成人の脈拍は1分間に60~100回程度。心房細動になると、心房の拍動数が300~600回に上昇し、脈拍も1分間に100回以上に上がります。
心房細動のある人は、日本に約100万人といわれています。しかし約半数は自覚症状がなく、したがって受診もしないので、実際の患者数はもっと多いはず。加齢とともに自覚症状のない心房細動も増加します。おそらく、総計約200万人。ざっと60人に一人の割合で、"ありふれた病気"なんです。
原因 | 高血圧、糖尿病、肥満、高齢など
--- おもな要因は?
大きく5つあります。
- 高血圧
- 糖尿病
- 肥満(脂質異常症、肥満による心臓疾患)
- 年齢(65歳以上)
- 遺伝的資質
いずれか一つ、あるいは複数に当てはまる人は、他の人より心房細動になりやすいと考えてください。
5.については、まだわからないことも多く、明言できません。ただし、患者さんの約3分の1は、家系に同病の方がいらっしゃる。血縁に心当たりのある方は、いちおう要注意です。
--なぜ、細動が起こる?
ごく簡単に心臓の構造をお話しておきます。
心臓は、大きく左側と右側に分けられます。
右側(右心房→右心室)で全身をめぐってきた血液を受け取り、肺に送ります。さらに左側(左心房→左心室)、肺で酸素を取り込んだ血液を受け取り、全身に送り出す。左右の心房は血液を受け入れる場所、左右の心室は心臓の外に血液を送り出すポンプの役割を果たしています。
通常は、右心房にある洞結節から発信される電気信号に基づいて、心臓が規則的に収縮します。
ところが、加齢や心臓疾患などによって、洞結節以外の場所から不規則な信号が発信されるようになると、小刻みに心房が震えてしまいます(図1)。
心室細動との違い
--- 「心室細動」という病名も耳にしますが……
「心室細動」では、ポンプそのもの(心室)が震えて、全身へ血液を送ることができなくなります。とても危険で、突然死することも。
しかし、心房細動と心室細動はまったく別の病気と考えてください。心房細動から心室細動に移行することも、ありません。
心房が震えると、心臓発作が起きるのかも……と不安に思う方もいらっしゃいますが、ご心配なく。心房細動だけでは直接的な死因になりません。心房が震えても、心室のポンプ機能が働いていれば、さほど問題はないからです。
ただし、心房内の血液がよどみやすくなるので、このことが、さまざまなリスクを呼び込みます。
注意点はどんなこと?|脳梗塞や心不全のリスク
--- そのまま放置すると、どうなりますか?
重篤なリスクの代表的なものが、脳梗塞と心不全。心房細動があると、脳梗塞は約5倍、心不全は約4倍起きやすくなります。
リスク1:脳梗塞
心房内の血液がよどむので、血栓ができやすくなる。その血栓が脳に飛んで血管を詰まらせると、脳梗塞を引き起こします(図2)。
さらに、心房細動が原因の脳梗塞は重症になりやすい。約半数が命を失い、助かったとしても予後が悪いんです(歩行困難など。社会復帰できるのは約30%)。
リスク2:心不全
最初の頃は症状の出かたも不定期で、発作が起きたときだけ、脈拍が早くなります(発作性心房細動)。しかし、長く放置しておくと徐々に慢性化します(慢性心房細動)。
慢性化すると、心室のポンプ機能が低下して、全身の臓器へ十分な血液を届けられなくなる。その結果、心臓その他の臓器に異変が起きる。それが心不全です。
自覚症状がない場合は血圧・脈拍測定が有効
--- 初期段階で治療を始めることが大事なんですね?
ええ。しかし、自覚症状がないと、気づけません。そのまま放置することになって、知らないうちに慢性心房細動に移行してしよう。ここが、難しい点です。
心房細動の診断には、心電図で確認することが必要ですが、受診中の心電図検査で不整脈が出ないことも、実は多いんです。ホルター心電計(24時間)を使ってみても、症状が出ないことも少なくありません。
このような場合に、一つ、有効な手立てがあります。
血圧と脈拍を定期的に(できれば毎日)測って、記録すること。とくに心房細動のリスクの高い人、65歳以上の方におすすめします。毎日決まった時間に血圧と脈拍をチェックしてみてください。
血圧がいつもより低く、脈拍測定がエラーする……。
これは、心房細動のサインかもしれません。何度か続くようでしたら、専門医を受診して、詳しい検査を受けてみてください。
どのような治療法がある?|薬による治療
--- おもな薬による治療について教えてください。
大きく「抗不整脈薬」と「抗凝固薬」があります。
A. 抗不整脈葉
心臓そのものに働きかけて心拍数を正常化させる内服薬です。症状が強くて、日常生活に支障が出る場合に服用します。
とくに発作性心房細動の場合は、ドキドキする頻脈を4分の3程度に減らすことができます(完全になくすことはできません)。
抗不整脈薬を8種類あげておきます(表1)。
抗不整脈薬の効果は、人それぞれで、服用前には予想できません。心電図をチェックしながら医師が総合的に判断して、服用の継続や変更を決めていきます。
B. 抗凝固薬
血液をサラサラにして、血栓をできにくくする内服薬です。血液をサラサラにするお薬は、アスピリンとワルファリンが有名ですが、アスピリンは心房細動による脳梗塞の予防には役立ちません(心房内の血のよどみ解消には効果がない)。
ワルファリンは、歴史も実績もある画期的な内服薬ですが、不便な点(飲み合わせ、食事制限、投与量調整、頭蓋内出血のリスク、頻繁な採血検査など)もあります。
近年、ワルファリンの不便さを克服した抗凝固薬が出ています(直接的経口抗凝固剤、商品名:プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)。
さらに最近では、高齢者でも服薬しやすい新薬も登場しています(商品名:リクシアナOD錠)。
これらの薬には、出血しやすくなるという副作用もあるため、使うか、使わないかを判断するには、患者さんそれぞれの心房細動のタイプを見きわめる必要があります。血液のよどみ具合や細動がおよぼす影響は、人によって大きく異なるからです。
手術:カテーテル・アブレーション
--- お薬による治療以外に、選択肢はありますか?
手術も一つの選択肢です。
血管中にカテーテルを通して心臓まで到達させ、不整脈を起こしている部位を焼く(あるいは冷却させる)ことで、心房細動の原因を取り除く手術(カテーテル・アブレーション)です。
すでに20年以上の歴史をもち、治療法として確立されていますが、高度の設備と技術が必要で、すべての病院で受けられるわけではありません。
異常な電気信号の発生源を取り去る治療法で、発作性心房細動にはほぼ確かな効果が見込めます。
手術時間は約3時間です(図3)。
心房細動の完治する確率は、アブレーション一回で約50%。二回目のアブレーションを受けると約80~90%に上がります。ただし、慢性心房細動になって時間が経ってしまうとさほどの効果は期待できまなくなります。
抗不整脈薬、抗凝固薬を使うか、使わないか。使うなどの薬を使うか。あるいはカテーテル手術か。
この選択も、息者さんが「どのような生活を望むか」によって、決まります。
たとえば、働き盛りの30~40代の方で、会議中や商談中に発作が起こると仕事にならないので困る。抗不整脈薬を試してみたが効かない、副作用が出る……などという場合は、カテーテル手術を選択する。
80代の方で、ほかにも疾患があり、仕事は引退して家庭や介護施設で過ごしている……という場合は、身体への負担を考えて、抗不整脈薬で症状を抑え、抗凝固薬でリスクを減らす。
患者さんそれぞれの事情に合わせて治療法を選択することが大切です。
予防することはできる?:生活習慣病の予防と同じ
--- 心房細動にならないためにできることはありますか?
なによりの予防策は、健康的な生活を送ることに尽きます。
- 過食しない。
- 標準体重をキープする
- 減塩する。
- 定期的に運動する。
- 十分な睡眠をとる
- ストレスを減らす。
- お酒やタバコを控える
つまり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防するのとまったく同じことなんです。
30~40代での発症はアルコールやカフェインが原因なことも
--- 最後に、若くても発症することもある…と聞きました。どういう場合?
30~40代で発症するのは、まさに生活習慣が乱れている人に多い。たとえば、アルコールやカフェインのとり過ぎです。
症状の出かたは人それぞれで、ビールをがぶ飲みすると発作の出る人、ワイン1杯で出る人、日本酒だと少量で発作が出るがワインならかなり飲んでもドキドキしない人……などなど。
アルコールやカフェインが誘因する場合は、薬物治療や手術をしなくても、アルコールやカフェインを減らすだけで症状が出なくなる人がほとんどです。
とはいえ、完全禁酒はなかなか実行できません。医師のアドバイスとしては、「何をどのくらい飲むとドキドキするか、試してみてください」と伝えます。すると、ご本人も用心深くなり、結果的に酒量が減って、症状もおさまることが多いようです。
「心房細動」という耳慣れない診断名に、不安になってしまう患者さんも多くいらっしゃいます。しかし、心房細動はすぐに命が危険にさらされるような病気ではありません。あせらず、しっかりと治療を受けながら、コントロールする必要があります。
どんな病気なのかをきちんと理解し、医師と相談しながら、自分にとってベストの治療法を選択していきましょう。
※ 本コンテンツは、「医療情報誌からころ 2018年52号」内掲載の「よくわかる医療最前線 第52回」を発刊元の許諾を得た上で、再構成して掲載しています。