第7回新型コロナウイルス感染症に関する調査 ~ スタッフの疲弊は高まり、早期退職を考える医師も 検査可能な医療機関は7割に拡大 ~
新型コロナウイルス感染症は、日本でもこれまでにない規模で感染が急拡大しています。1月7日には一部地域に再び緊急事態宣言が発令され、同13日には対象地域が11都府県に拡大されました。医療崩壊の危機が迫っているとの声も聞かれるなか、実際の医療現場はどのような状況にあり、医師・医療スタッフ・医療機関は持ちこたえることができるのでしょうか。また、いま医療機関は何を必要としているのでしょうか。
感染者が急増した2020年12月下旬に、診療現場にいる医師に、医療機関・医療スタッフの実態と、医師としての考えやその変化等を尋ね、541名から回答を得ました。
目次
第7回新型コロナウイルス感染症に関する調査の概要
調査目的
2020年3月以降7回にわたって実施しているトラッキング調査の内、2020年12月調査を同4月、6月、8月、10月に行った調査結果と比較しながら、診療現場にいる医師の実感を掴み、医療機関の対応状況、医師の意識の変化を見る。
調査概要
当社サービスにご協力をいただく医師とのコミュニケーションサービス"Doctors Square"登録会員医師で、2020年3月の第1回アンケートに回答のあった816名を対象に実施しました。
1. 調査対象
Doctors Square登録会員医師のうち、2020年3月の第1回アンケート調査に参加した方
2. 調査方法
インターネットアンケート
3. 調査期間
2020年12月24日 (木)~12月30日 (水)
4. 有効回答者数
541名(対配信数:66.3%)
5. 配信対象者の属性
全国の病院、診療所の勤務医及び開業医
6. 主な調査内容
- 医療スタッフの充足・疲弊状況、追加で行っている業務
- 医師としての考えや立場の変化、収入の変化
- 医療現場で困っていること
- 感染疑いのある患者の診察件数、検査状況、実施可能な検査、検査にかかる日数
- 来院患者数の変化、患者からの問い合わせ状況
- 感染対策状況、必要な備品・資材、情報の充足状況 など
調査結果
- 検査・治療実施医療機関の過半数が人員不足を実感。疲弊の高まりは8割に迫る
- 「コロナ前と比べ収入が減った」が半数以上。解雇や早期退職を考える医師も
- 半数近くが「診療・検査医療機関」として指定され、約7割の医療機関が検査可能
詳しくは、下記及び調査結果の詳細をご覧ください。
第7回調査結果(2020年12月実施)
※過去の調査結果
- 第1回調査結果(2020年3月実施)
- 第2回調査結果(2020年4月実施)
- 第3回調査結果(2020年5月実施)
- 第4回調査結果(2020年6月実施)
- 第5回調査結果(2020年8月実施)
- 第6回調査結果(2020年10月実施)
調査結果の詳細
1. 検査・治療を実施する医療機関の過半数が人員不足を実感。疲弊の高まりは8割に迫る
医療崩壊の危機に直面している要因として、人口あたりの医師数が多くないことや、感染対策にともなう追加業務の負担が大きいことなどがあると言われています。
実際、医療現場におけるスタッフ数の不足感はどれくらいなのでしょうか。不足感は昨年6月以降ずっと高まってきましたが、今調査では「十分でない」(「あまり」、「全く」の計)が4割を超え、「十分である」(「十分」、「まあ十分」の計)を上回る状況になっています(図1)。特に、新型コロナウイルス感染症の検査・治療をともに実施している医療機関では「十分でない」が過半数を占め、「十分である」の2倍以上となりました。
医療スタッフ数が不足している状況下では、個々のスタッフの負担は非常に大きくなります。医療スタッフの疲弊度についても尋ねました(図2)。新型コロナウイルス感染症の検査・治療ともに実施している医療機関において、疲弊が「高まっている」(「かなり」、「やや」の計)は8割に迫っています。回答者全体で見ても疲弊が「高まっている」は、これまでで最も高い58%となり、前回の緊急事態宣言下の昨年4月(54%)を上回りました。感染拡大第一波の時以上に、医療が切迫してきている様子が分かります。
このように疲弊度が高まっている大きな理由の1つに、予防対策や感染患者の対応のために医療スタッフが行う業務が増えたことがあるようです。新型コロナウイルス感染症対応のため、具体的には、どのような業務を追加で行っているのかを自由回答で聞きました。「病室清掃」「機器の消毒」等の清拭、「入り口での検温」「異なる動線への患者の誘導・説明」「検査介助」等の患者対応、「電話の応対」「対策会議」等の外部対応といった、多岐にわたる内容が挙がりました(*3)。
<*3. 新型コロナウイルス患者診察にともなう追加業務(自由回答、抜粋)>
- 病室の清掃、病室のごみの収集(宮城県・呼吸器内科)
- 清掃(山口県・内科)
- 院内の消毒・機器の消毒(北海道・その他)
- アルコール消毒(愛知県・眼科)
- ガウン装着などの感染対策の身支度(千葉県・呼吸器内科)
- 手術前検査(愛知県・外科)
- 発熱外来の開設(岐阜県・循環器内科)
- 感染対策(山梨県・消化器科内科(胃腸内科))
- 外来入り口で検温(愛知県・循環器内科)
- 異なる動線への誘導・説明など(岡山県・血液内科)
- 患者の誘導(東京都・糖尿病内科(代謝内科))
- コロナウイルスPCR検査介助(山形県・腎臓内科)
- ドライブスルーPCR検査(奈良県・脳神経外科)
- 患者、PCRセンターとの連絡業務(長野県・内科)
- 電話の応対が異常に増えた(山梨県・循環器内科)
- 対策会議での方針の検討(兵庫県・整形外科)
2. 「コロナ前と比べ収入が減った」が半数以上。解雇や早期退職を考える医師も
国内ではじめて新型コロナウイルスへの感染者が確認されてから既に1年が経過。流行の長期化、度重なる拡大により、医師の意識や行動にも「揺らぎ」が出てくることも考えられます。医師としての考えや立場に何か変化が生じたかを尋ねました。「責任の重さを実感」「覚悟ができた」との声がある一方、「早くリタイアしたい」「退職時期」など辞めることを考えるようになった、「解雇された」「倒産がありうる」「あきらめがある」などが挙げられました。
<*4. 医師としての考えや立場の変化(自由回答、抜粋)>
- 早くリタイアしたい(和歌山県・内科)
- 退職時期(千葉県・精神科)
- 出来れば早く勤務医を辞めたいと思いが強くなった(滋賀県・糖尿病内科(代謝内科))
- 非常勤勤務先を解雇されました。(静岡県・精神科)
- 病院の倒産がありえる(愛知県・精神科)
- 自身の医院が生き残ることを考えてしまう(北海道・その他)
- 疲労、ストレス、睡眠障害などで、うつ状態になった(山梨県・内科)
- つらい しんどい(兵庫県・外科)
- 事態は数世紀前のペスト流行と変わらない状態であることにあきらめがある(京都府・外科)
- 医療がしっかりしないと社会生活すべてに多大な影響が出る。責任の重さを実感している(千葉県・内科)
- 覚悟が出来た(新潟県・内科)
- 無駄な治療や投薬をやめるべき。高額医療を見直す(千葉県・心臓血管外科(循環器外科))
- 高齢者の進行がんや免疫疾患の治療ゴールが変わったため、新たなアプローチが必要(東京都・血液内科)
人員不足による疲弊や、先の見えない現状、決め手を欠く政府の医療や経済に対する施策への不安や不満に追い打ちをかける形で、医療機関のなかには厳しい経営状況に陥っているところも少なくないようです(図5)。新型コロナウイルス流行前と現在との収入面での変化を尋ねたところ、過半数が「減った」と回答しました。診療所・小規模病院に限定すると、その割合は約7割にも達しています。
医療崩壊を食い止めるためには、最前線で対峙する医療従事者へのメンタル・ヘルスケア、医療を提供する場所である医療機関の安定確保が不可欠であり、早急な対応が望まれます。
3. 半数近くが「診療・検査医療機関」として指定され、約7割の医療機関が検査可能
国はインフルエンザとの同時流行期の対策として、昨年10月以降、新型コロナウイルス感染症を含む発熱患者の診療・検査体制の整備を進めてきています。検査や診療が可能な「かかりつけ医」等の地域の医療機関を「診療・検査医療機関」として指定し、指定医療機関が新型コロナウイルス感染の疑いもある発熱患者に対応するというものです。
この「診療・検査医療機関」の指定状況は、どれくらい進んでいるのでしょうか。申請状況を尋ねたところ、「すでに指定されている」は27%(10月)→45%(12月)と、18ポイント増加しました(図6)。「現在申請中」の6%と合わせると、全体の約半数にも上る医療機関が「診療・検査医療機関」として、新型コロナウイルス感染症にあたることが出来るという結果となりました。医療機関規模別で見ると、「すでに指定されている」の割合は、診療所・小規模病院では3割超、中規模以上の病院では約6割と、倍近い差がありました。
では、上記の届け出とは別に、実際に検査や診療を行っている医療機関はどれくらいあるのでしょうか(図7)。回答者全体では、検査・治療の少なくともいずれかを行っているのは53%(10月)→63%(12月)と10ポイント増加。診療所・小規模病院は今調査(12月)時点で34%、中規模以上の病院で88%となりました。中規模以上の病院の「診療・検査医療機関」の指定状況は申請中を含めても約7割だったことと併せて考えると、実際にはもっと多くの医療機関が、新型コロナウイルス感染症の検査や治療にあたっていることが推察されます。
実施出来る検査内容について複数回答で聞いてみました。
- 「PCR検査」は35%(8月)→44%(10月)→57%(12月)
- 「抗原検査」は27%(8月)→35%(10月)→49%(12月)
とそれぞれ増加傾向が続き、PCR検査は、はじめて過半数となりました(図8)。反対に「検査はできない」との回答は51%→43%→31%と減少しており、今調査(12月)時点で、約7割の医療機関は何らかの新型コロナウイルスの検査を実施可能であることが分かります。
最後に、新型コロナウイルス感染症の疑い患者の診察状況にはどのような変化があるのでしょうか。直近1か月間では、「診察した」が41%(昨年4月の第1波)→46%(同8月の第2波)→50%(同12月の第3波)と、これまでの拡大時期を上回り、はじめて半数に達しました(図9)。医療機関規模別では、中規模以上の病院では54%、診療所・小規模病院でも44%が「診察した」と答えています。
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