新型コロナウイルス感染症に関する調査【コロナ禍の一年を振り返って】のべ回答者数4,640名におよぶ医師トラッキング調査から見えてくること ~医療提供体制は改善するも、医療従事者の負荷が大きな課題
国内の感染確認から1年以上が経過し、この間、わが国は度重なる感染の波に襲われ、緊急事態宣言も三度発出されました。たびたび「医療崩壊」が叫ばれるなど、日本の対新型コロナウイルス医療体制の評価は総じて低いようです。そうした評価は、臨床の現場にいる医師たちも同じ感覚なのか。であるとすれば、その原因はどこにあるのか。未だ感染が続く中、1年の節目として客観的なデータを追い、日本の新型コロナウイルス対策について振り返ってみたいとの思いから本レポートをまとめました。
目次
この報告の目的と概要
目的
2020年3月~2021年2月までに通算8回実施したトラッキング調査を振り返り、診療現場にいる医師の実感、医療機関の対応状況、医師の意識のトレンド、変化を見る。
調査概要
1. 調査目的
新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、診療現場にいる医師の実感を掴み、医療機関の対応状況、医師の意見などを明らかにする。
2. 調査対象
2020年3月にDoctors Square登録会員医師を対象として、第1回のアンケート調査を実施。
第2回以降は、第1回調査の回答者817名を対象とした。
3. 調査方法
インターネットアンケート
4. 調査年月
2020年3月、4月、5月、6月、8月、10月、12月、2021年2月(計8回)
※2021年4月に9回目となる調査も実施(本文書末尾にURLを記載)
5. 有効回答者数
第1回は817名、第2~8回平均は552名、のべ回答者数は4640名
6. 配信対象者の属性
全国の病院、診療所の勤務医及び開業医
7. 主な調査内容
- 医療スタッフの充足/医療スタッフの疲弊度/院内感染対策状況/「診療・検査医療機関」としての申請状況/ワクチン接種状況・接種意向・推奨意向
- 来院患者数の変化/相談や問い合わせの変化/感染疑いのある患者の診察・検査状況/疑い患者の事前連絡有無/相談窓口は機能しているか
- 医療現場で困っていること/不足している医療資材
- 感染以前の生活に戻るために必要なこと/収束時期予測/増えつつある、深刻化しつつある後遺症
調査結果のまとめ
- 人の体制:人手は感染の波にさらされて不足、疲弊は1年を通じて高止まり
- 診療体制:院内感染対策は早期に整い、診察・検査体制も大きく進歩
- サポート体制:医療物資・情報不足、専門治療施設の転院受入れなどの問題は概ね解消
詳しくは、下記及び調査結果の詳細をご覧ください。
■新型コロナウイルス医師調査結果 Annual Report(2020/3-2021/2)
※過去の調査結果
調査結果詳細
新型コロナウイルス感染症は、医療・健康という分野を超え、我が国の一般の生活者にも甚大な影響を及ぼしました。旅行、飲食、宿泊業の窮状は、そこで働いていた人々の日々の暮らしの糧を脅かし、当たり前だった通勤・通学は在宅ワーク、オンライン授業へと変わり、今も対面での接触が大きく制限された生活を余儀なくされています。そうしたなか、医療は文字通りの「生命線」となり、また、かつてないほどの大きな期待が寄せられています。
この間、幾度となく「医療の逼迫」「医療崩壊」が叫ばれました。なぜ、世界に誇る日本の医療が未知のウイルスにより危機的状況に陥ってしまったのか。実際の現場ではいったい何が起きていたのか。最前線の医療従事者にとって苦難の1年の変化を俯瞰すべく、継続して尋ねた項目を中心に、データを比較可能かつ変化がわかりやすくなるよう加工し、医療体制の変化を示す「対コロナ・インデックス」として指標化しました。(図1)項目ごとに年平均50、標準偏差20として指標化
指標は、「総合指標」及び、次の3カテゴリで構成しました。
- 「人の体制」
- (医師や医療従事者など、「人」の状況を指す)
- 「診療体制」
- (医療機関における新型コロナウイルスの治療や検査の可否など診療の状況を指す)
- 「サポート体制」
- (行政や医療資材などの外部要因の状況を指す)
まず「総合指標」で見ると、感染拡大初期の20年3~4月には28~31と低迷していましたが、同5月以降は50を上回り、21年2月には64に達しています。数値の上から、1年を通して対コロナの医療提供体制が徐々に改善されてきたことが確認されます。さらにその改善幅に着目すると、20年4月から5月にかけてが最も大きく19ポイント増、その後はほぼ横ばいとなり、20年12月~21年2月のあいだに10ポイント増加しました。
「人の体制」「診療体制」「サポート体制」の3カテゴリの指標で見ると、「人の体制」は20年6月に一時的に66まで上昇したものの再度下降し、20年3月と21年2月の直接比較では、44→47と大きな変化は見られません。他方、「診療体制」は16→73、「サポート体制」は24→71とそれぞれ大きく上昇しています。
(1)医療機関の人の体制:人手は感染の波にさらされて不足、疲弊は1年を通じて高止まり
医療を提供するには、そもそも医師をはじめとするスタッフの確保が不可欠です。「医療スタッフが足りているか」について1年間の変化を見ると、不足していることを示す「十分でない」が「十分である」を上回ったのは20年4月と同12月の2回。いずれも感染が急拡大した時期にあたり、患者の急増で人員確保が追いつかない状況に陥ったようです。また、20年12月の不足感は同4月よりもさらに深刻でした。(図2)
人員不足は個々の医療スタッフの負担を大きくすることでカバーされたと考えられます。「医療スタッフの疲弊度」では、疲弊が高まっていると感じる人が4~5割台という状況が1年間続きました。人員不足とは異なり感染拡大期以外にも疲弊が解消されない背景には、長引く入院治療だけでなく、継続した院内感染対策、問い合わせ対応、新型コロナに関する会議など、診療以外での追加業務があるのではないでしょうか。(図3)
医療現場で困っていることを尋ねた質問では、20年3月に過半数が選択していた「治療経験者がない」は2割弱まで減少し、「未知の病気に対する恐怖や不安」も20年4月以降、医師自身、自分以外の医療スタッフとも約半数から2割程度へと大きく減少しています。(図4)
医療機関における人の体制は、経験がないことや恐怖・不安は大きく解消されたものの、人手は感染の波にさらされ、感染が小康状態となっても疲弊がずっと続いていると言えます。
(2)診療体制:院内感染対策は早期に整い、診察・検査体制も大きく進歩
人の体制はあまり改善が見られず、厳しい状況が続くなか、実際の診療や検査などの診療体制はどのように推移したのでしょうか。直近1ヶ月間に新型コロナウイルス感染の疑いがある患者を診察した医師は、20年3月には22%でしたが、同4月には倍近い41%となります。その後、20年10月まで大きく減少することなく、第3波に入った同12月には50%、21年2月には53%に達しました。感染の波による上下が大きくないことから、疑い患者を診察できる医師が、1年を通して増えていったと言えます(図5)
感染拡大の初期段階で課題となっていた検査体制については、20年5月以降着実に拡充されていった様子が確認できます。実際に疑い患者を診察し検査が必要と判断した医師のみで見ると、「全て検査を行った」のは20年3~4月が3割台でしたが、その後徐々に増加し、同6月に過半数、21年2月には約8割に達するまでになりました。(図6)
一方、診察や検査の前提となる院内感染対策は、「出来ている」との回答が20年3~5月間で16ポイント増加し、4割台から6割近くへと上昇しました。受診控えが起こった1回目の緊急事態宣言下に、医療機関では院内感染対策が着実に進められたようです。(図7)
診療体制に関しては、疑い患者の診察能力は徐々に高まりました。また、診察の際に欠かせない検査は、医師の実経験からも大きく解消されていったようです。そして、診察をし、検査の必要性を判断するという診療行為の前提となる院内感染対策は、比較的早い段階で進んだと考えられます。
(3)サポート体制:医療物資・情報不足、専門治療施設の転院受入れなどの問題は概ね解消
新型コロナウイルスの感染が国内で拡大し始めた当初、マスクや消毒液等の感染対策資材のニーズが急増し、最前線の医療現場でも不足する事態が発生しました。また、検査で陽性が判明しても、指定医療機関で治療を受けられないといった問題も起きていました。医療物資や医療機関連携、患者の行動など、診療をサポートする体制はどのような経緯を辿ったのでしょうか。
医療現場で困っていることのうち「医療用物資不足」は、20年4月時点で実に7割にも達していました。しかし、同5月には5割、その後も不足解消に向かい、21年2月には1割程度まで大きく減少しています。「治療を行う上での情報不足」は、20年8月まで3割以上が挙げていましたが、同10月に2割弱、21年2月には1割程となりました。また、「専門治療施設が転院を受け入れない」については、20年4月時点で4分の1近くを占めたものの、その後は1割前後ないしそれ以下に抑えられています。(図8)
物資や情報の不足、専門治療施設へ転院できないといったサポート体制に関わる問題は概ね解消されたと言えます。
患者が医療機関に協力できることの1つに、「感染疑いがある場合には受診の事前連絡を入れる」があります。患者側の協力状況はどうだったのでしょうか。疑い患者を診察した医師のうち、20年3月時点では「全員事前連絡がなかった」が3割超、「事前連絡があるケースが少なかった」を合わせると半数を占めていました。この割合は徐々に減少し、同12月~21年2月は2割台となるなど、事前連絡が定着してきた様子が窺えます。(図9)
患者をはじめとする周囲からの医療機関へサポートには、「医療従事者に感謝し、応援やねぎらいの声を届ける」もあります。21年2月調査でねぎらいの言葉や応援の声をかけられた経験を尋ねました。「先生もお体に気をつけて」「頑張ってください」など気遣いや応援の言葉をもらったとのコメントが多く挙がり、偏見がなくなるようにとのメッセージが寄せられた、マスクなどの医療資材や差し入れが届いた、などの声もありました。(リスト1)
- 先生もお体お大事にと何度もいわれた。院内には地域の方々からのメッセージが多数掲示されている。お菓子屋さんなどから何度か差し入れがスタッフに届いた (福井・消化器科内科(胃腸内科))
- 患者さんから「先生もお体に気をつけて下さい」と言われた(岐阜・内科)
- 時々気遣いの言葉をいただく (東京23区外・内科)
- 頑張ってくださいとの応援の声 (神奈川・アレルギー科)
- 家族からねぎらいの言葉をかけてもらえている (東京23区外・内科)
- 近隣の小学校から医療従事者に対する偏見がなくなるようメッセージが届いたこと (長崎・呼吸器内科)
- 医療資材の無償提供と感謝の手紙等の応援 (兵庫・小児科)
- 病院に応援のメッセージや物資がたくさん届いた (山梨・内科)
- 医療資材の無償提供と感謝の手紙等の応援 (兵庫・小児科) 他記載多数
リスト1.患者や家族からのねぎらいの言葉(自由回答、抜粋)
度重なる感染の波と緊急事態宣言、検査数や低いワクチン接種率、治療薬の開発・普及など、日本のコロナ対策は失敗したとの声もあります。しかしながら、1年間の調査結果を振り返ると、これまで見てきた通り医療機関の診療体制やそのサポート体制が改善へと向かってきているのもまた明らかです。
平時の日本は、国民皆保険制度によって「誰でも、いつでも、どこでも」医療サービスを受ける事が出来る、世界でも稀に見る医療制度の充実した国です。そして、それは実直で勤勉な医師や医療スタッフたちの手によって、世界に誇れる高い水準を維持してきました。
しかし、有事と言えるこのコロナ禍においては、その日本の医療は厳しい状況に置かれています。これまで長寿国として結果を残していた日本の医療が、コロナ対応において、その高い水準を十分に活かすことが出来ていないのも事実です。
現在のグローバル化した世界では、他の地域で出現した未知のウイルスも、決して対岸の火事ではありません。こうした世界的なパンデミックのもとでも、日本の高度な医療サービスを維持できるよう、まずは喫緊の問題である医療従事者への支援を強化するとともに、浮かび上がった諸課題については、一つ一つ確実に解決していくことが求められています。それは同時に、未来の日本の医療を創造すること、そしてより充実化・高度化させていくことにほかなりません。
新型コロナウイルス感染症に対する当社の取組み ~ 適切な医療を受けるために
当社が運営する医療機関検索サイト「病院なび」( https://byoinnavi.jp/ )は、身体に不調を抱え受診を希望する患者さんを中心に多くの方々にご利用を頂いています。そのなかには新型コロナウイルスへの感染が疑われる、不安を感じておられる患者さんのご利用も多くあります。当社では、医療崩壊を未然に防ぎ、また患者さんを二次感染などから守るべく各フェーズで次のような取組みを行っています。
これらのサービスは、すべて無料で利用することが出来ます。
● 医療機関を探す:「病院なび」のサイト内に、厚労省をはじめとする公的機関の窓口や情報をまとめた「新型コロナウイルスに関する問い合わせ窓口とよくある質問」を開設。オンライン診療が可能な医療機関も掲載しています。
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