「蓄積型熱中症」って何?「家の中だから大丈夫」は危険…医師が警告する“夏の疲れ”と見逃せないサイン

「蓄積型熱中症」とはどのような状態なのか、発症しやすくなる原因や見逃してはいけないサイン、予防のポイントについて、林外科・内科クリニックの林裕章理事長に解説してもらいました。
医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
目次
「蓄積型熱中症」とはどのような状態なのでしょうか。一般的な熱中症との違いも教えてください。
「蓄積型熱中症」は日々の暑さ、睡眠不足、食欲低下、脱水などの負担が重なって発症しやすくなる状況を説明するため、メディアなどで使われる便宜的な表現です。

なぜ毎日の暑さや疲労が積み重なると、熱中症を発症しやすくなるのでしょうか?
最大の理由は、体温を下げるために使える「余力」が減るためです。

人間の体は、暑さを感じると自律神経の働きによって皮膚の血管を広げ、汗をかいて体温を下げようとします。ところが脱水になると、循環する血液量が減り、皮膚へ血液を送ることと、筋肉や脳などへ血液を送ることを両立しにくくなります。発汗に使う水分も不足し、心拍数が上がりやすく、体内に熱がこもりやすくなります。
さらに、日中に失われた水分や塩分を、夜間のうちに完全に補給・回復できない日が続くと、体液が慢性的に不足した「かくれ脱水」とも呼ぶべき状態になることがあります。
「かくれ脱水」も正式な診断名ではありませんが、のどの渇きが強くない段階でも水分不足が進んでいることはあります(※4)。前日の発汗に見合う水分や食事がとれていないうえ、睡眠不足、食欲低下、下痢、風邪症状、飲酒などが重なると、翌日は熱中症になりやすくなります。
スポーツの現場でも、前日に発熱や下痢があった人は体が脱水状態にある可能性があり、いわゆる“病み上がり”では熱中症のリスクが上がると注意が呼びかけられています(※6)。
体液が不足すると、人間の体は「これ以上水分を失うと命に関わる」と判断し、防衛本能として汗をかくのを制限してしまうことがあります。冷却水が足りないのにラジエーターを止めてしまうようなもので、結果として体内に熱がこもりやすくなり、少しの暑さでも熱中症を発症してしまうのです(※2)。
また、暑さに慣れる「暑熱順化」が不十分な梅雨明け直後、長期休暇後、急に暑くなった日は、同じ気温でも発症リスクが上がります(※6)。
見落とされがちですが、危険なのは気温だけではありません。消防庁のデータでは、気温がそれほど高くなくても湿度が高い日には救急搬送が増えることが示されています(※3)。湿度が高いと汗が蒸発しにくく、せっかくかいた汗が体温を下げてくれないためです。
「蓄積型熱中症」を疑うべき初期症状やサインを教えてください。
「十分な睡眠をとってもだるさが抜けない」「食欲不振が続く」「微熱がある」といった症状が、「蓄積型」あるいは通常の熱中症の初期症状であることもあります。

ただし、この状態の厄介なところは、初期症状が単なる「夏バテ」や「夏の疲れ」と非常に似ており、区別がつきにくい点にあります。
そこでぜひ知っていただきたいチェックポイントが「尿の色と量」です。尿の回数や量が減り、いつもより濃い黄色になるのは、脱水を疑う手掛かりになります(※5)。ただし、尿の色はビタミン剤、食べ物、薬、肝臓・腎臓の病気などでも変わるため、あくまで目安のひとつです。
赤色や茶褐色の尿は、血尿や筋肉障害(横紋筋融解症)など別の原因もあり得るため、早めに医療機関へ相談してください。
また、「暑い場所にいるのに汗がピタッと止まってしまう」、あるいは逆に「涼しい部屋にいるのに異常な冷や汗が出る」といった発汗の異常も、体温調節がうまくいかなくなっている危険信号であることがあります。
これらのサインが見られた場合は、「ただの疲れだろう」と放置せず、涼しい環境で経口補水液などを飲み、しっかりと休むことが必要です。意識がはっきりして自力で飲める場合は、涼しい場所へ移し、衣服を緩め、皮膚を水でぬらして風を当てる、首・わきの下・脚の付け根などを冷やすなどして体を冷やし、水分と電解質を補います。
吐いて飲めない、症状が改善しない場合は速やかに受診してください。意識がおかしい、反応がない、自力で飲めない場合はためらわず119番通報し、誤嚥の危険があるため無理に飲ませてはいけません(※2)。
なお、わきの下で測った体温が高くなくても、熱中症は否定できません。体温だけでなく、暑い環境にいたかどうかと、意識・歩行・吐き気などの症状を合わせて判断します。
「蓄積型熱中症」を予防するために、意識すべきことを教えてください。
予防の最大の鍵は、「暑さを避ける」「体を冷やす」「水分を補う」「体調の悪い日は無理をしない」を組み合わせることです。それらにより、前日の疲労や脱水を翌日に持ち越さない、という考え方にもつながります。

大量に汗をかいたときや、長時間の運動・作業をしたときには、水分だけでなく塩分も補うことが重要です。汗と一緒に失われた塩分(ナトリウム)を補わずに水ばかりを飲むと、血液の塩分濃度が薄まります。すると体はその濃度を正常に保とうとして、かえって尿として水分を排出してしまい、脱水が改善しません。重症化すると「水中毒(低ナトリウム血症)」という危険な状態を引き起こすこともあります(※2)。
味噌汁やスープなど、食事から塩分と水分を一緒に摂ることが理にかなっています。高血圧、心不全、腎臓病などで塩分・水分制限を受けている方は、自己判断で塩分を増やさず主治医の指示に従ってください。ただし、食事を通常どおり取れている人が、日常的に塩分を追加する必要はありません。
経口補水液は脱水時には有用ですが、塩分が多いため日常の水代わりに常飲するものではありません(※2)。
また、夜間のエアコン使用をためらう方がいらっしゃいますが、睡眠中の室温管理は命に関わります。タイマーで切るのではなく、朝まで適切な温度(室温28度以下が目安)を保ち、脳と自律神経をしっかり休ませて回復させることが、有力な予防法となります。
意外な落とし穴として、エアコンが「あるのに使えていない」ケースがあります。東京都監察医務院と東京大学が2013〜2023年の都内の熱中症死亡例を分析したところ、屋内で亡くなった約1,300例のうち16.4%は、冷房のつもりが暖房設定になっていた、故障に気づいていなかった、リモコンの電池が切れていた、といった理由でエアコンを使いこなせていませんでした(※7)。
夏本番の前に、リモコンの電池やフィルター、冷房がきちんと効くかを一度確認しておくと安心です。
さらに、気温だけでなく湿度・日射・風を反映する暑さ指数(WBGT)を確認し、熱中症警戒アラートの日は外出や運動の時間をずらしましょう(※8)。睡眠不足、食欲低下、下痢、発熱、二日酔いがある日は活動量を落とすことも大切です。
高齢者、乳幼児、独居の方、糖尿病・心疾患・腎疾患のある方、利尿薬・一部の降圧薬・向精神薬などを使用している方はリスクが高まる可能性があるため、周囲の声かけと早めの冷房使用が重要です(※1)。薬は自己判断で中止せず、暑い時期の注意点を主治医や薬剤師に確認してください。
<参考・引用情報源>
※1:一般社団法人 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」
※2:環境省「熱中症環境保健マニュアル ~総論~(2025年7月版)」
※3:総務省消防庁「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」
※4:厚生労働省「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」
※5:厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド―尿の色でセルフチェック(隠れ脱水症の見つけ方)」
※6:公益財団法人 日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(熱中症予防5ヶ条)」/スポーツ安全協会「暑熱順化を始めよう」
※7:東京都監察医務院・東京大学「熱中症で死なせないために エアコンを使いこなせない人を取り残さないように」
※8:環境省 熱中症予防情報サイト「暑さ指数(WBGT)について」
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※本記事の作成・推敲にあたり、文章構成案および表現整理の補助として生成AIを使用しました。医学的内容については医師が確認し、必要に応じて公的機関・専門学会等の情報を参照しています。
※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。


「蓄積型熱中症」という言葉は、日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2024」に記載された正式な医学的病名ではありません(※1)。
ちなみに、この「熱中症診療ガイドライン2024」は約10年ぶりの改訂で、従来のⅠ〜Ⅲ度に加えて、最も重い「Ⅳ度(最重症群)」が新しく設けられました。それだけ重症の熱中症で命を落とす人が多い、という危機感の表れです(※1)。
一般的な熱中症は、炎天下での運動や作業などによって、急激に体温が上昇し、短時間で発症する「急性」の症状を指します。
メディア等で言われる「蓄積型熱中症」は、連日の暑さの中で、脱水、睡眠不足、食欲低下、下痢や発熱などの体調不良、暑さへの慣れ不足が重なり、熱中症を起こす「余力」が少なくなった状態、と理解するとよいでしょう(※2、※6)。体内に「熱」そのものが何日も物理的に蓄積し続けているわけではありません。暑さによる全身的なダメージの蓄積により、普段なら問題ないはずの室内や、それほど高くない気温でも、突然体温調節ができなくなり倒れてしまうことがあるのが特徴です。
言い換えると「体温を逃がす能力や循環の余力が落ち、同じ暑さでも限界を超えやすくなる」状態と捉えるとよいでしょう。
意外に思われるかもしれませんが、熱中症で救急搬送される人が最も多いのは、炎天下の屋外ではなく「住居」です。消防庁の集計では、令和7年(2025年)の全国の搬送者のうち住居での発生が約38%を占め、道路などの屋外を上回っています(※3)。「家の中にいれば安心」とは限らない、という点はぜひ知っておいてください。