肝臓からのSOSを見逃さないで!じつは「肝臓がん」の初期症状かもしれない不調とは

医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
目次
「肝臓がん」とはどのようなガンでしょうか?どのような特徴をもつがんか、発生部位、日本での患者数や傾向などを教えてください
肝臓がんは、大きく分けて肝臓自体から発生する「原発性肝がん」と、他の臓器(大腸や胃など)のがんが移ってきた「転移性肝がん」の2種類があります。一般的に「肝臓がん」と呼ぶ場合は、前者の原発性を指すことが多く、その約90%を「肝細胞がん(HCC)」が占めています。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、多少のダメージでは悲鳴を上げません。そのため、がんが発生してもかなり進行するまで自覚症状が出にくいのが最大の特徴です。
多くの肝細胞がんは、いきなり健康な肝臓にできるのではなく、B型肝炎・C型肝炎、脂肪肝(生活習慣病)、アルコールなどを背景に、慢性肝炎→肝硬変といった“土台”の上に発生しやすい傾向があります。
日本では、2021年に肝臓がん(肝細胞がん+肝内胆管がん)と診断された人は34,675例で、男性に多いがんです。死亡数は2024年で22,465人とされ、依然として重要ながんの一つです。
日本では、かつてはB型・C型肝炎ウイルスが原因の肝臓がんが大半を占めていましたが、ワクチン接種や医療現場での感染対策など感染予防が進んだことに加え、抗ウイルス薬の普及によってウイルス性肝炎そのものが減少し、肝臓がんも減少傾向にあります。一方で、生活習慣病に伴う脂肪肝(非アルコール性脂肪肝炎)やアルコールを背景とした肝臓がんが増加しており、誰にとっても他人事ではない疾患となっています。
「肝臓がん」の代表的な症状を教えてください
肝臓がんは、初期にはがんによる症状がほとんどないことが多いです。症状が出るときは、がんがある程度大きくなったり、肝機能が落ちたり、周囲の臓器を圧迫したりした段階であることが少なくありません。
肝臓がんが進行してくると、肝臓の機能が低下したり、腫瘍が周囲を圧迫したりすることで以下のような症状が現れます。
- 黄疸(おうだん): 白目や皮膚が黄色くなる。尿の色が濃い茶色(紅茶のよう)になる。
- 腹水: お腹に水が溜まり、太ったわけではないのにお腹が張る、苦しい。
- 右腹部の痛み・しこり: 右の肋骨の下あたりに鈍い痛みや圧迫感を感じる。
- 全身の倦怠感: 体がだるく、休んでも疲れが取れない。
- 食欲不振・体重減少: 理由もなく体重が数キロ落ちる。
などが挙げられます。これらの症状が出ている時点では、がんはある程度の大きさ(数センチ以上)になっているケースがほとんどです。さらに進行すると、肝不全に伴って意識がぼんやりする(肝性脳症)、消化管出血などが問題になることもあります。
ただし重要なのは、これらの症状の一部は「肝臓がんそのもの」だけでなく、背景にある肝硬変や慢性肝炎による症状としても起こり得る点です。
「肝臓がん」の初期症状で、見逃されがちな症状あるいは体の異変を教えてください
「初期」の段階では、肝臓がんそのものの症状というよりも、背景にある肝硬変や肝機能低下に伴う微細な変化として現れることが多いです。
- 疲れやすい、だるさが抜けない(寝ても回復しにくい)
- かゆみ、肌の色の変化(黄疸ほど明らかでない段階も)
- 食欲が落ちる、胃もたれが続く
- 体重がじわじわ減る(意図しない減少)
- 微熱が続く、なんとなく体調が悪い
- 右上腹部の軽い違和感(痛いほどではない重苦しさ)
- 手のひらが赤くなる(手掌紅斑)、胸元にクモの足のような赤い血管が浮き出る(クモ状血管腫)
これらは「疲れかな?」「加齢のせいかな?」と見過ごされがちですが、実は肝臓からのSOSである可能性があります。
だからこそ本当に大事なのは、症状の有無よりも「肝臓がんができやすい体質・背景(リスク)があるか」です。
具体的には、B型/C型肝炎、脂肪肝(生活習慣病)、アルコールなどを原因として慢性肝炎→肝硬変が背景にあると、肝がんのリスクを大きく上げることが知られています。
一時的な体調不良と、「肝臓がん」の初期症状を疑ったほうがよい状態を見分けるヒントがあれば教えてください
ただの疲れとがんの初期症状を完璧に見分けるのは、専門医でも検査なしでは困難です。しかし受診を検討すべき「見極めのヒント」はあります。
見分けるコツは、“症状の強さ”よりも、続き方・増え方・背景(リスク)です。次のような場合は、単なる体調不良で片づけずに一度医療機関へ相談する価値があります。
- 「期間」に注目する
通常の体調不良(睡眠不足や一時的な飲み過ぎ)であれば、3日〜1週間ほど安静にすれば改善します。しかし、2週間以上だるさや違和感が続く場合は要注意です。 - 「リスク因子」の有無を確認する
・健康診断で「肝機能数値(AST, ALT, γ-GTP)」の異常を指摘されたことがあるか
・B型/C型肝炎と言われたことがあるか(治療後も要注意なことがあります)
・脂肪肝と言われたことがあるか
・お酒を長年多めに飲むか
・過去に輸血を受けたり刺青を入れたりしたことがあるか(ウイルス性肝炎のリスク) - 肝機能低下のサインを意識する
黄疸、尿が濃い、便が白い、むくみ、腹部膨満など“肝機能低下を疑うサイン”がある - 「体重」を測る
肝臓がんに限りませんが、ダイエットをしていないのに、1ヶ月で2〜3kg以上ストンと落ちるような場合は、体がエネルギーをがんに奪われている可能性があります。
これらに当てはまる方は、症状が軽くても“念のため”の検査が合理的です。肝臓がんは症状が出る前に見つけた方が治療の選択肢が広がるからです。
医療機関へ相談する場合に伝えるべき内容
医師は限られた時間の中で、あなたの「がんのリスク」を評価します。以下の情報を整理して伝えると、診断がスムーズになります。
- 具体的な症状
・いつから、どのような違和感(痛み、だるさ、痒みなど)があるか
・毎日続く?良くなっているか?悪化しているか?
・だるさ、食欲、体重、発熱、腹痛(場所)、吐き気、便・尿の色、むくみ、腹部の張り
・「1か月で◯kg減った」など、具体的な体重変化 - 過去の指摘事項
・過去の健康診断で肝機能の再検査を放置していないか(重要!)。
・B型/C型肝炎の指摘歴、治療歴
・脂肪肝、糖尿病、肥満、飲酒量(毎日か、何杯か、何年か)
・過去の健診で肝機能異常(AST/ALT、γ-GTP)を言われたか
・健診結果、血液検査の紙、過去のエコー/CT/MRIの結果があればそれも - 家族歴
・血縁者に肝がんや肝炎、他のがんを患った人がいるか。 - 既往歴
・糖尿病や高血圧などの生活習慣病を治療中かどうか。
肝臓がんは早期発見できれば、手術やラジオ波焼灼療法などで根治を目指せる病気です。少しでも不安があれば、消化器内科や肝臓内科を受診してください。
<肝臓のSOSに気づくためのセルフチェックリスト>

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、異変があってもなかなか症状に出ません。以下の項目で当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
体調・自覚症状のチェック
[ ] 最近、しっかり休んでいるのに全身のだるさ(倦怠感)が抜けない
[ ] 以前に比べて食欲が落ちた、あるいは少し食べただけでお腹が張る
[ ] ダイエットをしていないのに、ここ数ヶ月で体重が数キロ減った
[ ] 右側の肋骨(ろっこつ)の下あたりに、重苦しい違和感や鈍痛がある
[ ] 微熱が続いたり、体が火照ったりすることがある
2.見た目の変化のチェック
[ ] 鏡を見ると、白目の部分や皮膚が以前より黄色っぽくなった気がする
[ ] 尿の色が濃くなり、紅茶やウーロン茶のような色をしている
[ ] 手のひらが全体的に赤っぽくなっている(特に親指や小指の付け根)
[ ] 胸元や腕に、クモの足のような赤い血管の浮き出しがある
[ ] 体に湿疹はないのに、全身にムズムズとした痒みを感じる
3.生活習慣・健康診断のチェック
[ ] 健康診断で「肝機能の数値(AST、ALT、γ-GTP)」の異常を指摘された
[ ] 「脂肪肝」または「肥満」であると言われたことがある
[ ] お酒(アルコール)を毎日、あるいは多量に飲む習慣がある
[ ] 糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がある
[ ] 過去に「B型肝炎」や「C型肝炎」の感染を指摘された、または家族に感染者がいる
診断結果の目安とアドバイス
- チェックが0〜1個: 今のところ肝臓への大きな負担は少ないと考えられますが、過信は禁物です。年1回の定期健診を必ず受けましょう。
- チェックが2〜3個: 肝機能が低下しているか、何らかの肝疾患の初期段階である可能性があります。「疲れのせい」で済ませず、一度消化器内科などで血液検査やエコー検査を受けることをおすすめします。
- チェックが4個以上、または「黄疸(黄色い目・濃い尿)」がある場合: 早急に医療機関(内科)を受診してください。肝臓がんや肝硬変など、進行した肝疾患が隠れているリスクがあります。
このチェックリストは診断を確定させるものではありません。肝臓がんは早期に発見できれば治療の選択肢が非常に多いがんです。リストに少しでも当てはまる項目があり、それが2週間以上続いている場合は、「念のため」という気持ちでお近くの内科に相談してください。その一歩が、あなたの健康を守る大きな分岐点になるかもしれません。
※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。

