“隠れ医師不足”は指定区域の外にも。医師601人調査で見えた地域医療のひずみ

目次
【本調査の3つのポイント】
1. 医師不足の実感は指定区域の外にも拡大
- 「医師が少ない地域で働いている」と感じる医師:33% → 約半数は指定外地域で、医師不足感を抱えながら勤務
- 実際に都道府県指定の「医師少数区域」に該当:23%
2. 「お金だけでは動かない」地方勤務——希望する医師は14%
- 医師偏在是正の重要な取り組み「経済的インセンティブ」:66%が支持
- それでも「医師少数区域で勤務したい」医師は14%にとどまり、6割超が「勤務したくない」と回答
3. ICTへの期待は“現場ほど慎重”
- ICT(オンライン診療・遠隔医療支援など)が偏在是正に「つながると思う」:5〜6割
- しかし、実際に医師少数区域で働く医師ほど「ICTだけでは解決しない」と冷静な評価
医師不足を感じている医師たちの声——「医師1人で100人」「紹介先が見つからない」
「医師が少ない地域で働いている」と感じている医師からは、次のような切迫した声が寄せられました。
- 「医師1人で100人入院している病院の平日勤務をすることがある」(徳島県・精神科)
- 「専門医のいない中での対応に迫られる」(長崎県・皮膚科)
- 「信頼できる紹介先がなかなか見つからない」(茨城県・内科ほか多数)
- 「救急患者、とくに心肺停止患者が同時に搬送される事態となると心苦しいが断らざるを得ない」(長野県・麻酔科)
- 「病院周辺から離れられない」(長崎県・産婦人科)
- 「休みがとれない」(山口県・小児科)
- 「看護師が退職したあと補充ができなかった」(島根県・内科)
「指定エリアの外」に広がる医師不足の実感
調査では、「医師が少ない地域で働いている」と感じている医師のうち、実際に都道府県指定の「医師少数区域」に該当したのは53%にとどまりました。裏を返すと、残り47%は指定外地域で勤務しながら、医師不足を実感していることになります。(図1)
中規模以上の病院勤務医に限ると、
- 自身を少数区域勤務と認識:39%
- 実際の指定区域勤務:24%
と、認識と指定のギャップはさらに大きくなります。

自由回答からは、次のような構造的な要因が見えてきました。
- 救急医療体制の維持困難
- 「救急搬送患者の対応が困難」
- 「救急医療が崩壊しかけている」
- 医師個人への負担集中
- 「当直の多さ」「休暇取得が困難」「学会に行きづらい」
- 地域医療連携の課題
- 「信頼できる紹介先がなかなか見つからない」
- 「基幹病院が遠く紹介しにくい」
- 「専門外の患者を紹介する際、受け入れ先を見つけるのが大変」
- 診療科の偏在・スタッフ不足
- 「自分の専門外の診療もしなければならない」
- 「マイナー診療科は夜間や休日に医師がいない」
- 「看護師や事務員も不足し、退職後の補充ができない」
公的な「医師少数区域」の内外を問わず、より広い範囲で医療提供体制に歪みが生じていることが分かります。
経済的インセンティブは“必要条件”——それでも地方勤務は14%止まり
医師偏在是正のために重要だと思う取り組み(複数回答)では、「経済的インセンティブ」が66%で最多となりました。中規模以上の病院勤務医に限ると、その割合は71%に高まります。(図2)

自由回答からも、経済的支援への強い期待がうかがえます。
- 「インセンティブがなければ人は都会に集まるのは当然」(新潟県・外科)
- 「診療報酬を地域によって変える必要がある」(埼玉県・消化器内科)
- 「給料数倍&期間限定ならとも思うが、税金もその分取られるので控除も必要」(北海道・循環器内科)
一方で、現在医師少数区域で勤務していない医師のうち、今後「勤務したい」と答えたのは14%にとどまり、6割超が「勤務したくない」と回答しています。(図3)
勤務条件として挙がったのは、経済面にとどまりません。
- 勤務条件の改善(勤務時間・日数):52%
- 住居等の待遇改善:36%
- 当直回数の上限設定:34%
- 生活利便性(交通・商業施設等):33%
報酬・勤務環境・生活環境をセットで改善しなければ、医師の地方勤務は進みにくいという現実が浮かび上がりました。

ICTへの期待と限界——「技術だけでは解決しない」
オンライン診療や遠隔医療支援など、医療ICTが医師偏在是正につながるかを尋ねたところ、回答者全体では5〜6割が肯定的な回答をしました。しかし、実際に医師少数区域と考える地域で働く医師ほど、ICTへの期待はやや控えめという結果になりました。(図4)

現場を知る医師ほど、
- 「ICTは必要だが、人的リソース不足までは埋めきれない」
- 「救急や当直負担は、結局リアルな医師がいなければ回らない」
といった、“冷静な期待値”を持っていることがうかがえます。
医師たちが語る「構造的な課題」
自由回答では、医師偏在を生む“構造”への指摘も多く寄せられました。
- 人口動態と医療体制の見直しについて
- 「人口減の問題・人口偏在が問題」(神奈川県・循環器内科)
- 「限界集落の集約化等が必要。オラが村、街に医療機関を作れと我儘を言わない」(愛媛県・内科)
- 「医療機関の統合など集約化が重要では」(神奈川県・泌尿器科)
- 診療科による偏在の問題
- 「診療科偏在も問題」(大分県・消化器外科)
- 「一般外科や産婦人科志望医師減少への有効な歯止めがあれば、若手の成長志向を後押しする流れに繋がるのではないか」(福島県・健診担当)
- 「内科医の不足、外科医の育成が重要です。医学部の定員を増やしても対策にはならない」(東京都・内科)
- 医師派遣の仕組みについて
- 「以前の医局のような制度がないと困難」(茨城県・整形外科)
- 「大学がコントロールしてた昭和の時代へ戻すこと」(秋田県・糖尿病内科)
- 「各地大学医局の医師派遣体制を壊し、医師の大都市集中を促した新臨床研修制度の廃止が最も有用と考える」(栃木県・糖尿病内科)
地域医療の課題は、「どこに医師を増やすか」だけでなく、人口配置・医療機関の集約・派遣スキームといった“設計そのもの”の問題でもあることが示唆されました。
【調査概要】
- 調査対象:弊社医師向けサービス Doctors Squareの登録会員医師
- 調査方法:インターネットアンケート
- 調査期間:2025年10月9日 (木)〜10月20日 (月)
- 有効回答者数:601名
- 配信対象者の属性:全国の病院、診療所の勤務医及び開業医(内科28%、精神科7%、整形外科6%ほか)
- 主な調査内容:
- 医師少数区域での勤務の認識と実態(※実態については、都道府県別に医師少数区域のリストを提示し実際の勤務地が該当するかを尋ねた)
- 今後の医師少数区域での勤務意向と勤務条件
- 医師少数区域での勤務障壁と実際に経験した問題と困難
- 医師偏在是正のために重要だと思う取り組み
- 医療ICTへの期待度
