脊髄性筋萎縮症 (Spinal muscular atrophy:SMA) とは
背骨の中には脊髄(せきずい)と呼ばれる神経の束があります。SMAはこの脊髄の中にある、筋肉を動かすためにはたらく細胞(運動神経細胞)が変化して、手や足などの筋肉が弱くなっていく病気です。
赤ちゃんから大人まで幅広い年齢層で発症します。その中でも、1歳半までに発症するタイプの患者さんの割合が高いです*1)。また、乳児~小児期に発症するSMA患者さんの割合は、およそ10万人に1人~2人とされています*2)。
- *1)厚生労働科学研究費補助金 (難治性疾患政策研究事業).
神経変性疾患領域における調査研究班 平成30(2018)年度(分担)研究報告書. - *2)
小児慢性特定疾病情報センター.42 脊髄性筋萎縮症.
https://www.shouman.jp/disease/details/11_18_042/,(2022年9月16日参照)
症 状
筋力の低下を中心としたさまざまな症状があらわれ、進行していきます。
発症する年齢と運動機能のレベルによって、0~Ⅳ型の5つのタイプにわけられます。タイプによって進行の程度とスピードは異なりますが、発症年齢が低いほど重症な場合が多いです。
- タイプ
- 0型
- Ⅰ型
- Ⅱ型
- Ⅲ型
- Ⅳ型
- 成 長
- 発症する年齢
- 生まれる前
- 生後0~6カ月
- 生後18カ月まで
- 生後18カ月以降
- 20歳以降
- 運動機能
レベルの目安 - 運動機能なし
- 支えなしで座れない
首がすわらないこと
が多い - 支えなしで座れるが
支えなしで歩けない - 支えなしで歩けるが
階段が上れないこと
もある - 運動発達は正常な
場合がある
出典:
- 3)Kaneko K, et al. Brain Dev. 2017; 39: 763-73.
- 4)厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業).
神経変性疾患領域における調査研究班 平成29(2017)年度(分担)研究報告書.
タイプ別の症状
SMAは進行するため、できるだけ早く治療を始めることが重要です。また、治療を始めるタイミングが早いほど、治療効果が高いこともわかっています。SMAが疑われる症状があれば、まずはお近くの小児科や神経内科、かかりつけ医などで、専門医療機関への受診を相談しましょう。
Ⅰ型(生後0~6か月)でみられる症状の例
- 首のすわりが遅い、支えなしで座れないなど成長に合わせた動きがみられない
- 体が柔らかい、体がふにゃふにゃしている
- 寝返りをしないなど体の動きが少ない
- 舌や指先が細かく震える
- シーソー呼吸*がみられる
*
「息を吸うときは胸がへこんでおなかがふくらむ」「息を吐くときは胸がふくらんでおなかがへこむ」
- 母乳やミルクを吸う力が弱く、うまく飲めない
- 泣き声が弱い
Ⅱ型(生後18か月まで)でみられる症状の例
- 支えなしで立てない、または歩けない
- 座った姿勢で背中が丸い
- 指先が細かく震える
Ⅲ型(生後18か月以降)でみられる症状の例
- 支えなしで歩けるが、階段を上れない
- うまく歩けず転びやすい
- 走るのが遅い
- 腕が上がりづらい
- つまさきが外側に向いて、膝はX脚になる
- 以前は歩けていたのに歩けなくなる
Ⅳ型(20歳以降)でみられる症状の例
日常生活に大きな支障はなくても、以下のような症状があれば医療機関を受診しましょう。
- 支えなしに立ち上がりづらい、または歩きづらい
- うまく歩けず転びやすい
- 階段の上り下りに手すりが必要
- 以前は持つことができた物が持てない
- ペットボトルのふたが開けづらい
- 太ももなど体の力が弱くなってくる
- 体の一部が細かく震える
- ちょっとした段差につまずきやすい
出典:
- 5)脊髄性筋萎縮症(SMA)診療の手引き編集委員会 編.脊髄性筋萎縮症(SMA)診療の手引き.第1版.メディカルレビュー社; 2022.
- 6)
難病情報センター.脊髄性筋萎縮症(指定難病3).
https://www.nanbyou.or.jp/entry/135,(2021年7月21日参照) - 7)Wang CH, et al. J Child Neurol. 2007; 22: 1027-49.
- 8)和田郁雄,他. Jpn J Rehabil Med. 2008; 45: 720-7.
原 因
ほとんどのSMAは、SMN1(エスエムエヌワン)という遺伝子に原因があります。
SMN1遺伝子とは、筋肉を動かすために必要なSMNタンパク質(運動神経細胞生存タンパク質)をつくりだす遺伝子です。
SMA患者さんは、このSMN1遺伝子の一部を持っていないもしくは持っていても変化しているためにSMNタンパク質をつくることができません。SMNタンパク質は、SMN1遺伝子に似たSMN2(エスエムエヌツー)遺伝子からもつくられますが、そのほとんどは正しくはたらかないSMNタンパク質です。
<イメージ図>
このようにSMA患者さんは、SMNタンパク質がわずかしかないため、筋肉を動かすためにはたらく細胞(運動神経細胞)が変化して、筋肉の萎縮(いしゅく)が起こります。それにより、筋力が低下して手や足などが動かしにくくなり、立てない、うまく歩けないといった症状があらわれます。
また、SMNタンパク質の量が少ないと、筋肉だけでなく、消化器や骨など、体のさまざまなところで影響がでるとされています*9)。
- *9)Yeo CJJ, et al. Pediatr Neurol. 2020; 109: 12-9.
診断・検査
SMAを診断するための主な検査は血液検査です。
SMAは乳幼児健診のほか、患者さんご自身やご家族の方が体の異変に気付くことがきっかけで発見されます。しかし、診断に至るまでに時間がかかることがあり、その間に症状が進行する患者さんもいらっしゃいます。SMAが疑われる症状があれば、早めに小児科や神経内科、かかりつけ医などで、専門医療機関への受診を相談しましょう。
治 療
SMAに対しては、SMNタンパク質をつくりやすくするお薬の治療があります。また、SMAがもとになってさまざまな症状が引き起こされる合併症に対しても、ケアすることが必要です。
- SMAの原因に対する治療
-
- SMAの原因に対する治療
- 合併症に対するケア
-
- 呼吸に関するケア
- 食べることや飲むことに
関するケア - 身体の姿勢や動きに
関するケア
- など
これらの治療とケアには、医師、看護師のほかにもさまざまな役割を持つ専門家がかかわります。
多くの医療関係者が、SMAを治療する患者さんとご家族をサポートしています。
※
本コンテンツは、「With your SMA」内の情報を運営元である中外製薬株式会社の許諾を得た上で、再構成して掲載しています。
監修医情報
東京女子医科大学 ゲノム診療科
特任教授 齋藤 加代子 先生