「浴室」以外でも起きる可能性も…「ヒートショック」が起きやすい人、注意すべき意外な場所・状況とは?

医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
日本外科学会外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定スポーツ医
目次
急激な温度変化によって引き起こされる「ヒートショック」
ヒートショックの正体は、急激な温度変化によって引き起こされる「血圧の乱高下」です。典型的なのが、冬の入浴時の発生です。
- 暖かい部屋から寒い脱衣所・浴室に移動すると、体は熱を逃がさないために血管を縮めて血圧が上がります。
- その後、熱い湯に入ると血管が広がって血圧が下がります。
- さらに浴槽から急に立つと、水圧の支えが消えて血圧が下がりやすく、脳への血流が減って意識が遠のくことがあります。
こうした“上がる→下がる”の急変が、心臓に過度な負担をかけたり、脳への血流を一時的に減少させたりすることで、転倒や、心筋梗塞、脳卒中、意識障害による浴槽内での溺水事故を引き起こすのです。
見逃してはいけない「危険なサイン」とは?
ヒートショックの症状は軽度なものから命に関わるものまでさまざまですが、以下のサインを見逃さないことが大切です。
軽度〜中等度のサイン
立ちくらみ、めまい、動悸、寒気。
重症の危険なサイン
胸の痛み・圧迫感→心筋梗塞や狭心症の疑いがあります。
激しい頭痛・吐き気→脳出血などの脳血管障害の可能性があります。
ろれつが回らない・手足のしびれ→脳梗塞の典型的な兆候です。
とくに注意したいのが、転倒による意識消失・外傷と、なによりも浴槽内での「静かなる溺水」です。
意識を失うと声を出すこともできず、そのまま沈んでしまうため、同居家族が異変(お湯の音がしない、呼んでも返事がないなど)に早く気づくことが重要です。
ヒートショックが起きやすいのはどんな人?
血管の柔軟性や自律神経の調節機能が低下している方は、特にリスクが高くなります。
- 高齢者(65歳以上):血管が硬くなり(動脈硬化)、急激な血圧変化に対応しにくくなります。
- 生活習慣病がある方:高血圧、糖尿病、脂質異常症の方は、すでに血管にダメージが蓄積しているため、わずかな負荷で心血管イベントが発生しやすい状態です。
- 不整脈や心疾患の既往がある方:血圧の変動がダイレクトに心臓への負担となり、不整脈を誘発する恐れがあります。
- 飲酒後や食直後に入浴する方:飲酒や食事は一時的に血圧を下げる効果があるため、入浴によるさらなる血圧低下(脳貧血)を招きやすくなります。
以上の方に加えて、睡眠薬・精神安定薬など眠気が出る薬を服用後や、体調不良、脱水気味(発熱・下痢、冬でも水分摂取が少ない)の方も要注意です。
ヒートショックが起きてしまったらどうすればいい?
大原則は「入浴・作業を中断して、安全な場所で転倒しない姿勢を取る」です。
めまい・動悸・息苦しさが出たら、浴槽につかっている場合はいったん浴槽の縁につかまり、急に立たずに落ち着いて呼吸し、可能なら家族に声をかけます。
浴槽から出るなら、手すりがあれば手すりを使い、ゆっくり動いてください(急な立位で血圧が落ちやすいことが知られています)。
もし浴槽でぐったりしている家族を発見した場合は、迅速かつ落ち着いた行動が命を左右します。
- 頭を出す:何よりも先に、顔を水面から出して呼吸を確保してください。
- お湯を抜く:意識がない人を無理に引き上げるのは困難です。栓を抜いて、これ以上溺れないようにします。
- 助けを呼ぶ:すぐに119番通報を行います。
- 心肺蘇生:呼びかけに応じず、普段通りの呼吸がない場合は、直ちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始してください。
- 体温の保持:体が冷えないよう、浴槽内でタオルや毛布をかけて保温します。
無理に脱衣所まで運ぼうとして、濡れた床で転倒したり、腰を痛めたりしないよう注意してください。その場での応急処置が優先です。
浴室以外でヒートショック発生の危険性がある場所は?

ヒートショックは「浴室」のイメージが強いですが、実は「温度差がある場所すべて」がリスクポイントになります。
- トイレ:深夜、早朝のトイレは非常に危険です。いきむ動作(怒責)は血圧をさらに上昇させるため、寒いトイレ内でいきむと心臓への負担が最大化します。
- 寝室からの移動:暖かい布団から出て、冷え切った廊下を歩く際も注意が必要です。
- ゴミ出しや洗濯物干し:室内と屋外の温度差が激しい冬の朝、薄着で外に出る瞬間に血圧が急上昇します。
- 暖房のない脱衣所:服を脱ぐ瞬間が最も体が冷えるため、入浴「前」の準備が肝心です。
ヒートショック予防のために実践・意識したい3つのこと
予防の基本は「温度差を減らす」「血圧が乱れる条件を避ける」「万一のとき発見を早める」の3本柱です。
1. 温度差を減らす→シャワーでお湯を張り、寒い部屋をつくらない
脱衣所やトイレに小さなヒーターを置き、事前に暖めておく。浴槽の蓋を開けておいたり、シャワーでお湯を張ることで浴室の温度を上げておいたりするなど、寒暖差を減らすようにしましょう。また、住まい全体として寒い部屋を作らない工夫が重要で、WHOのガイドラインでは寒冷期の室温について18℃が健康を守る目安として提案されています。
2. 血圧が乱れる条件を避ける→入浴のしかたを調整する
42℃以上の熱すぎる湯・長湯を避ける、手足の先から順番に「かけ湯」で体を慣らす、浴槽から急に立ち上がらない。これらは失神や意識障害リスクを下げる実務的なコツです。
そのうえで、飲酒後・食後すぐ・眠気が出る薬の服用後の入浴は避け、脱水を避けるために入浴前後の水分補給を意識します。
3. 万一のとき発見を早める→家族間で声がけするなどの環境を整える
ご自身だけでなく、ご家族でお互いに声を掛け合い、「今からお風呂に入るよ」「長湯してない?」といったコミュニケーションを取ることも、万が一の際の早期発見につながる大切な予防策です。
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※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。

