溶連菌感染症 【医師監修】 主な症状は喉の痛み 発熱 発疹 大人でも感染する
以前は、猩紅熱と呼ばれる重症なタイプもみられましたが、現在では適切な治療で多くは問題なく治ります。しかし、重症化する場合やリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの合併症を引き起こすことがあるため、経過に注意が必要な感染症です。
医師紹介
目次
- 溶連菌感染症とは?
- 症状 - よくある喉の痛み・発熱 特徴的な発疹・イチゴ舌
- 風邪との見分け方は咳や鼻水がないこと
- 感染経路は「飛沫感染」「接触感染」
- 免疫はつかない 何度もかかることがある
- 感染しても症状のでない保菌状態の人からでもうつる ?
- 検査 - 迅速診断キットなどを使った検査など
- 治療 - 抗生物質の服用 すべて飲み切ることが重要
- 合併症 - 急性糸球体腎炎に注意
- その他の合併症 - リウマチ熱
- 子どもに多い溶連菌感染症 - 4歳~15歳に多い
- 学校・幼稚園・保育園への登校・登園の目安
- 大人でも溶連菌感染症になる !
- 妊婦の溶連菌感染症
- 予防・対策 - 感染者と接触しないこと !
- 家庭で気をつけること - お風呂は熱が下がってから
溶連菌感染症とは?
溶連菌感染症は溶連菌、正式には溶血性連鎖球菌と呼ばれる細菌に感染することで起こる感染症です。一年中かかることのある感染症ですが、流行時期は、12~3月と7~9月に多い傾向があります。
溶連菌にはいくつか種類がありますが、人に感染して病気を発症させるもののほとんどはA群β溶血性連鎖球菌と呼ばれる溶連菌です。
主に喉に感染するため、多くの場合、喉や扁桃腺に炎症を起こし、痛みなどの症状があらわれます。その他にも、免疫力が低下していたり、喉以外の場所に感染することで、以下のようなさまざまな症状を引き起こします。
〇その他の症状
- 中耳炎
- 副鼻腔炎
- 伝染性膿痂疹(とびひ)
- 蜂窩織炎(皮膚の深いところから皮下脂肪組織にかけて化膿性の炎症を起こす)
- 肺炎
など
症状 - よくある喉の痛み・発熱 特徴的な発疹・イチゴ舌
潜伏期間
2~5日
主な症状
- 38℃以上の発熱
- 喉の痛み
- 嘔吐
- 倦怠感
- 発疹
- イチゴ舌
- 吐き気
- 腹痛
など
初期症状として、まずは発熱と喉の痛みがあらわれることが多く、それと同時か1~2日遅れて発疹の症状があらわれることがあります。
子供の場合は、吐き気や腹痛をともなうことがあります。
喉の痛み
溶連菌は主に喉に感染するため、喉の痛みは特によくあらわれる症状です。強い痛みのほかに、喉が赤く腫れ、扁桃腺には白い滲出液が付着することがあります。また、上あごには点状の出血があらわれることもあります。
発疹
溶連菌感染症は、全身にかゆみをともなう赤い発疹がでることが特徴的ですが、必ず出る症状ではありません。発疹のひとつひとつは2mm以下と小さいですが、隣り合った発疹がつながって一面に赤く見えることがあります。
〇典型的な発疹のあらわれかた
- 脇や太ももの内側にではじめ、1日ほどで顔を含め全身に広がる
- 顔は額や頬が赤くなり、口の周りに発疹はでないことが特徴
発疹があらわれてから1週間ほどたつと、発疹のあったところの皮膚は細かい屑となって剥がれ落ちることがあります(落屑)。
発疹自体は適切な治療を受ければ3日ほどで治ります。
イチゴ舌
舌にツブツブができてイチゴのように見えることからイチゴ舌と呼ばれる症状がでることがあります。これも、発疹と同じく必ずあらわれる症状ではありません。また、川崎病など他の病気でもみられる症状です。
風邪との見分け方は咳や鼻水がないこと
溶連菌感染症の特徴的な症状は、発疹やイチゴ舌ですが、これらは必ずあらわれる症状ではありません。よくあらわれる症状は、喉の痛みや腫れ、発熱や倦怠感のように、一般的な風邪とよく似ているため、区別がつきにくい場合があります。
一方で、咳や鼻水の症状がでにくいという特徴があります。咳や鼻水がでていないのに、喉の痛みをともなう風邪のような症状があらわれた場合は、溶連菌感染症かもしれません。
このような症状があった場合は、症状が軽いからと自己判断で済ませず、他の人に感染させてしまう可能性や合併症の危険もあるため、医療機関を受診しましょう。
感染経路は「飛沫感染」「接触感染」
主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。
飛沫感染:
感染している人の咳やくしゃみなどに含まれる細菌を吸いこむことで感染します。
溶連菌感染症では咳の症状はほとんどみられませんが、他のことが原因で咳やくしゃみをすることで溶連菌が飛び散り、それを吸いこむことで感染につながります。
接触感染:
手指やもの、食品などについた細菌が主に口から体内に入ることで感染します。
水ぶくれ(水疱)状の発疹の中の液体には溶連菌が存在しているため、その液体を触れた手指などを介して感染することがあります。発疹の症状がでている場合は注意が必要です。
乳児の場合はなめて唾液がついたおもちゃなどを介して感染することがあります。
溶連菌の感染力は強く、きょうだい間での感染率は25%~50%という報告もあります。最も感染力が強いのは症状がではじめたころです。その後は徐々に感染力は弱まり、治療薬である抗生物質を飲むと、そこから24時間以内には感染力はなくなります。
■参考サイト
国立感染症研究所ホームページ
免疫はつかない 何度もかかることがある
溶連菌感染症を起こす細菌はA群β溶血性連鎖球菌ですが、A群β溶血性連鎖球菌にもいくつかの種類があり、一種類ではありません。
一度感染した溶連菌の種類に対しては免疫を獲得することがありますが、別の種類の溶連菌には、その免疫は効果がない場合があります。そのため、溶連菌感染症には何度でも感染する可能性があります。
感染しても症状のでない保菌状態の人からでもうつる ?
溶連菌に感染しても、免疫力が十分に保たれている場合などは症状があらわれず、健康な状態で喉に溶連菌をもったままの「健康保菌者」となることがあります。学校で検査をすると、健康保菌者が15~30%程度存在するという報告もあります。
この保菌の状態から感染することはまれと考えられているため、過度に心配する必要はありません。
■参考サイト
国立感染症研究所ホームページ
検査 - 迅速診断キットなどを使った検査など
周りに溶連菌感染症にかかった人がいる、38℃以上の発熱をしている、そのほか溶連菌感染症を疑う症状がみられた場合や合併症を起こしやすい年齢である場合などは、診断のために検査を行います。
検査方法には、迅速キットのほか、細菌培養検査、血液検査があります。
迅速診断キット
綿棒で喉をこすって、溶連菌が含まれているかを診断キットで調べます。15分ほどで結果がでるので、簡単に検査することができ、正確性も80%~90%と優れています。
ただし、綿棒で採取した溶連菌の量が少ないと陰性になってしまうことがあります。
培養検査
迅速診断キットと同じく、綿棒で喉をこするところまでは同じですが、培養検査は綿棒で採取した菌が増えるのを待って検査をするため、結果が出るまでに数日かかります。
溶連菌以外の細菌に感染している可能性があれば、それらも調べることができるのが利点です。一方で、検査前に抗生物質を服用していると、細菌を見つけられないこともあります。
血液検査
血液を採取して、溶連菌の感染状態を調べます。迅速診断キットや培養検査は、溶連菌に感染している間、さらに喉に溶連菌が存在している間しか検査することができませんが、血液検査は溶連菌感染症の症状が治まったあとでも、抗体が増えている間は溶連菌に感染していたかを調べることができます。
溶連菌感染症の合併症である糸球体腎炎やリウマチ熱が疑われる場合は、原因を明らかにするために血液検査をすることがあります。
治療 - 抗生物質の服用 すべて飲み切ることが重要
治療には、ペニシリン系やセフェム系などの抗生物質を使用して溶連菌を殺菌します。それぞれの抗生物質は、服用する期間が決まっていて、どの種類でも10日前後は確実に服用する必要があります。
症状がよくなったなど、自己判断で薬を飲むことをやめてしまうと、きちんと治りきらずに、再発や糸球体腎炎やリウマチ熱などの合併症を起こすリスクを高めてしまうことになります。処方された薬は医師の指示に従い、必ず飲み切るようにしましょう。
そのほかに、発疹のかゆみには、塗り薬タイプの抗ヒスタミン薬が処方されることがあります。
合併症 - 急性糸球体腎炎に注意
急性糸球体腎炎とは、溶連菌感染症の代表的な合併症のひとつです。溶連菌感染症が治る過程で一時的に腎臓に炎症が起こる合併症で、溶連菌に感染してから1~6週間後に以下のような症状があらわれます。
〇主な症状
- 浮腫(むくみ)
- 血尿
- 高血圧
など
急性糸球体腎炎になる原因のほとんどはA群β溶血性連鎖球菌とされていています。発症するのは20歳以下の人に多いのですが、一方で、15歳未満であればほとんどが治るのに対して、20歳以上だと慢性糸求腎炎に移行する確率が高くなるとされています。
最近では溶連菌感染症の診断をすぐに行うことができ、早い段階から治療を開始できるため、急性糸球体腎炎になる人は少なくなっています。
尿検査
急性糸球体腎炎にかかっていないかを調べるために尿検査を行うことがあります。
溶連菌感染後の急性糸球体腎炎では、浮腫(むくみ)や血尿、高血圧などの特徴的な症状がはっきりあらわれないこともあるので、尿検査の指示を受けた場合は自己判断せず、きちんと検査を受けるようにしましょう。
尿検査で異常がなくても、さらに時間が経ってから遅れて急性糸球体腎炎になることがあります。そのため、溶連菌感染症になったあとに尿の色が褐色になったり、浮腫(むくみ)などの症状があらわれた場合は、再度医療機関を受診しましょう。
その他の合併症 - リウマチ熱
溶連菌感染症の代表的な合併症には、急性糸球体腎炎のほかに、リウマチ熱があります。
リウマチ熱は、溶連菌感染症の初期症状である、発熱や喉の痛みが治まったあと2~3週間後に、以下のような症状があらわれます。
〇主な症状
- 発熱
- 関節の痛み
- 皮膚の下にこぶができる(皮下結節)
など
このように関節リウマチと同じような症状があらわれるため、リウマチ熱と呼ばれています。関節リウマチとリウマチ熱は、全く異なる病気です。さらに重篤な症状には以下のようなものがあります。
〇 心臓系
- 心膜炎(心臓を覆う膜の炎症)
- 不整脈
- 心臓弁膜症(心臓の弁の異常)
〇 脳神経系
- 舞踏病
自分の意志ではコントロールできない手足などの痙攣性の動き
リウマチ熱によくかかる年齢は5~15歳ですが、無治療の場合に3%以下の発症率とそれほど頻度は高くありません。早期に治療を開始することでさらに発生の頻度を下げることができます。
溶連菌感染症の合併症は、溶連菌に対抗するための抗体が、正常な関節や心臓、脳神経を誤って攻撃してしまう自己免疫異常によって起こります。溶連菌感染症になった全ての人が合併症を発症するわけではありませんが、発症すると重篤になる場合があるので、経過には注意が必要です。
子どもに多い溶連菌感染症 - 4歳~15歳に多い
溶連菌感染症はどの年齢でも感染しますが、子供がかかることの多い感染症です。特に感染の多い年齢は4歳~15歳です。
一方で、3歳以下だと、典型的な症状があらわれることは少なく、合併症である糸球体腎炎やリウマチ熱になることも少ないとされています。
また、子供の場合は、大人と比較すると吐き気や腹痛など、お腹の症状をともなうことが多くなります。
学校・幼稚園・保育園への登校・登園の目安
各学校、教育・保育施設によって対応が異なり、一定の明確な出席停止期間は設けられていません。
学校保健安全法では、溶連菌感染症は第三種に分類されることがあり、登校・登園の目安としては以下のように定められています。
○ 病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
引用) 学校保健安全法施行規則
また、文部科学省の「学校において予防すべき感染症の解説」では、登校(園)の目安は以下のようにされています。
○ 適切な抗菌薬療法開始後 24 時間以内に感染力は失せるため、それ以降、登校 ( 園 ) は可能である。
有効な抗生物質を飲んでから24時間が経つと、感染力はほとんどなくなるため他の人にうつす可能性は低くなりますが、個人差があるので、医師の指示に従いましょう。無理はせず、十分に回復してから登校・登園するのがよいでしょう。
大人でも溶連菌感染症になる !
子供がかかることが多い溶連菌感染症ですが、大人が感染することもあります。大人が感染しても、典型的な症状が出ることは少ないですが、免疫力が低下している場合などは子供と同様の症状があらわれます。
このように症状が出にくいことや、症状が出ても単なる風邪と済ませてしまうことで、大人の溶連菌感染症は医療機関の受診につながりにくく、治療の開始が遅れがちです。
その一方で、大人は子供に比べて、溶連菌感染症の合併症である急性糸球体腎炎になる頻度は低いのですが、もしなってしまった場合は子供より治りにくいうえ、腎臓の障害が継続する確率も子供より高いという報告もあります。免疫力が低下している高齢者などは、肺炎を引き起こすこともあります。
溶連菌感染症の典型的な症状(発熱・喉の痛み・発疹)がでた場合はもちろん、喉の痛みはあるのに咳や鼻水はでないような場合などは、ただの風邪で済ませずに、医療機関を受診して溶連菌の検査を受けましょう。
妊婦の溶連菌感染症
妊娠中でも服用できる薬があるので治療することが可能です。妊娠中は普段よりも免疫力が低下していることが多いため、処方された薬は決められた量を決められた期間できちんと服用し、完治させましょう。
予防・対策 - 感染者と接触しないこと !
溶連菌感染症にワクチンはありません。そのため、予防としては、感染者との接触を避けることが最も重要です。
それに加え、一般的な予防や対策として、手洗いやマスクの着用なども行いましょう。そのほかには、食器の共有をしないことも有効です。
家庭で気をつけること - お風呂は熱が下がってから
あらわれる症状によって、以下のような注意が必要です。
発熱
38℃を超える高熱がでることがあります。発熱の症状があるときは、入浴はさけ、水分補給をしっかりしましょう。
発疹
発疹の症状がでている場合でも、入浴自体が感染の原因にはならないため、熱が下がっていればお風呂に入ることは問題ありません。ただ、体があたたまることでかゆみが増すこともあるので、シャワー浴などで軽く済ませるほうがよいでしょう。
さらに、水ぶくれ(水疱)状の発疹がでている場合は、発疹の中の液体には溶連菌が存在しているので、発疹がつぶれるなどして漏れ出た液体に触れると接触感染につながることがあります。そのため、身体を拭くときに発疹がつぶれないように気をつける、タオルの共用はしないなどの注意が必要です。
また、溶連菌感染症の発疹はかゆみをともなうため、子供の場合は特に爪を短く切るなどして、発疹をかいてしまわないように注意しましょう。
喉の痛み
喉や扁桃腺などに炎症がある場合は、口の中がしみて飲食がしづらいことがあるため、炭酸飲料や辛い、酸っぱい、熱いなど、刺激がある食べ物は避けたほうがよいでしょう。
※当コラムは東京内科医会のご協力によって作成されています。
東京内科医会は、常に最新の医学知識を学び、最良の医療を実践している、熱意のある医師の集まりです。